Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ホステージ

ホステージ」ロバート・クレイス。

先日、日本人二人がISILなる山賊集団に拉致監禁された上、最後に殺されるという忌まわしい事件があった。
犯人どもは、まことに無道の者どもである。憎みても余りある連中であろう。

そんな事件のこともあって、人質事件の本を読んでみる気になった。手に取ったのが本書である。
ホステージ」とは、「人質」という意味である。

チンピラギャング3人組が、食料品店にピストル強盗に押し入る。店主がピストルで応戦しようとし、慌てた一味は店主を射殺してしまう。
彼らは、そのまま車でメキシコ国境へ逃走を図るが、おんぼろ車であったためエンスト。
そこで、彼らは、そこの近くの住居に押し入る。ガレージにある車を奪おうとしたのである。
ちょうどそこへ、食料品店の事件の通報を受けた所轄の警官がやってくる。不審な車両を見かけていないか、聞き込みに回っていたのである。
ギャング一味は、警官に向けて発砲。警官は負傷する。
ただちに警察署から警官が出動し、ギャング一味は住居にいた父親、姉弟の3人を人質にとって立てこもる。
警察を率いる署長タリーは、元SWAT隊員で、このような人質事件の犯人との交渉役を行っていた。
その交渉に失敗し、人質の少年を死なせてしまったことがトラウマとなり、妻娘と別居中で、みずから閑職を望んでこの警察署長になったのである。
にも関わらず、彼はふたたび交渉役をやることになってしまった。
ところが、犯人の立てこもった住居は、実は普通の住居でなく、各所に監視カメラが仕掛けられた要塞のような建物だったのだ。
自宅で仕事をしている会計士の父親は、実は西海岸のギャングの頭領ソニー・ベンザの裏帳簿をつけており、自宅には120万ドルの裏金がうなっていた。
父親はギャングにひどく殴られて、頭を負傷し、そのまま昏睡してしまう。

タリーは、途中まで交渉を行い、応援に駆け付けたSWAT部隊に交渉を引継ぎが、そこでなんとタリーの妻娘をひそかに誘拐したと脅迫の電話がタリーの携帯にかかってくる。
悪事の露見を恐れたベンザが、手下に命じてタリーの妻娘を拉致したのである。
タリーは、真相を言えば妻娘の生命にかかわることから、立てこもり事件の指揮権を取り戻し、そのまま立てこもり犯との交渉を続けることになる。
ベンザの望みは、裏帳簿をつけたディスクを現場から回収することで、それをタリーに要求してきた。
しかし、タリーは、ディスクを渡してしまえば、秘密を知る自分と家族は皆殺しにあうだろうと考える。
立てこもり犯人と交渉し、無事に人質の3人を救出し、かつ自分の家族を取り返す困難な交渉のしなければならない。
タリーの必死の交渉はつづく。

やがて、人質に取られていた姉弟のうち、男の子のトーマスの活躍により、タリーはディスクを確保。
犯人たちは仲間割れを起こして発砲が起こり、ガソリンをまいた住宅は炎に包まれる。
警官隊は機を逃さず突入。
なんとか人質を助け出す。
そこでディスクを手に入れたタリーは、今度は自分の家族を取り戻す交渉を始めるのだった。
タリーがとった手段は、、、という話。


のちに映画化されたようで、まさに映画のシナリオのような小説である。
抜群のリーダビリティで、読み始めると、続きが気になり、なかなか中断することができない。
実にうまく練られたストーリーである。
評価は☆。

欲を言えば、いわゆるアメリカのハードボイルド小説にある主人公の影を深く感じさせるような描写には乏しい。
自分自身を叱咤激励し、困難な事態に立ち向かう男の姿はよく描けているが、まあ、いってみれば「それだけ」なのだ。
「よく頑張りました」というお話に終わってしまう。
映画シナリオとして一流(ハリウッドの、という前提がある)、小説としては、うーんと思わないではない。

先の事件のように、実際の人質事件は、解決は容易ではない。
犯人どもの要求を拒めば、見せしめに人質が殺されてしまうのは、実例が示している。
しかし一方で、衆人環視の中、人質を連れたまま、脱出もできないのが犯人側の通常でもある。
時間切れになり、最後は悲惨な結果に終わることがほとんどだ。
実際は、小説のようにはうまくいかない。

最近は、交渉人という役割も、だんだん認知されてきたようである。
世の中には、色々な職業がありますが、これはもっとも過酷な職業ではないか、と思いますねえ。