Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

資産フライト

「資産フライト」山田順。副題「増税日本から脱出する方法」

今年、タックスヘイブンパナマの会計事務所から「パナマ文書」が流出し、大きな話題となった。
海外の租税回避地に、いかに大企業や富裕層が資産を逃避させているかの一端が明らかになったからである。
もちろん、日本の大企業の名前もそこにはあった。

ネットの一部では「国賊」よばわりし、ただちに重加算税を課税しろと息巻くものも多かった。
しかしながら、ことはそう簡単ではない。

あなたが、仮に太平洋の小島のような国の大統領になったとしよう。
島にはろくな産業がない。もちろん、輸出できる資源もない。人口も少なく、有力企業を誘致することもできない。
しかし、政府としては、何らかの産業で立国しなければならない。ろくな税収がないこの国では、政府そのものが立ち枯れてしまう。
さあ、あなたが大統領なのだ、いったいどうしますか?

ところが、である。
この「ないないづくし」のように見える国に、たった一つの資源がある。それは「国家主権」である。

国家主権とは、早い話が法律を他国に左右されずに定め、施行する権利である。
これを犯すことは「内政干渉」であるから、国際法上アウトだ。
国連では、どんな小さな国も「1票」を持つが、これも国家主権である。

国家主権を「商品」にするのが、タックスヘイブンである。
海外企業にとって、非常に有利な税制を準備するのだ。
税率10%でも(場合によっては無税でも)いいじゃないか。もともと、椰子の木しかないんだから。

そうすると、お金持ちの会社が、続々とやってきて、登記手数料を払い、投資会社だの匿名組合だのを作ってくれる。
さらに、多少の税金も払ってくれる。
彼らのお金をプールするために、銀行の海外支店ができるし、会計事務所もできる。
おめでとう、大統領。
あなたは、見事に「国家主権」を産業にすることに成功したのだ。

さて、この大統領の行為を、いったい誰が非難できるだろうか?

本書にあるように、富裕層は5つの国旗を持つ。
1.国籍を持つ国旗
2.住所を置く国旗
3.働いて収入を得る国旗
4.資産を運用する国旗
5.休暇を楽しむ国旗

重要なのは、それぞれ別の国旗でもいいし、1つの国旗でもいいということである。
多くの日本人は、上記の5つをすべて日の丸で済ませている。
しかし、そのうちのいくつかを、別の国旗を使ってもいい。
タックスヘイブンでわかるように、国家主権は「商品」なのである。
もっとも「お買い得」な国旗を買えばいい。

インターネットの登場で、これらの国旗の使い方は、ずいぶんと変わった。
その変化についていけない人も、もちろん多いが、しかし、ついていって「より自由に生きる」のも、それはそれでアリなのだ。
ただ、前提として、ある程度のお金が必要である。
だって、国旗は「商品」なのだから。お金がなければ、買えない。当然のことである。

本書の評価は無星である。
絶望的に金融知識がなさすぎる。
もうひとつ。
国旗を使うのは自由なので、当然、それに伴うリスクもある。自由とリスクは一体である。
ごく当然の話しなのだが、多くの人々が「一方的にうまい話」だと思う可能性があるので、あまり良い書物ではない。
失敗した時の痛さを描いておいたほうがいいだろうと思う。

そういえば、最近、反グローバリズムをいう人々が増えた気がする。
グローバルな競争に勝てないという愚痴が「世界が悪い、おれは悪く無い」と変化したものであろう。
グローバリズムのおかげで、たとえばIT業界は大いに恩恵を受けている。
一方で没落するものもあるが、それは自由な経済体制では、当然のことである。
弱者を保護したり、失敗した人の敗者復活を支援したりするのは、自由な経済体制の活力を維持する上で、たいへん重要なことである。
それが不十分だから、いきおい「競争そのものが悪だ」という共産主義的思考に陥ってしまうのであろうと思う。
不幸なことである。

戦前の日本が大東亜戦争を起こした。その原因は、つきつめれば当時の保護主義ブロック経済にある。
ありていに言えば、「持たざる国」「遅れてきた国」だった日本は、あのままの世界であれば食えなかった。
食えなければどうするか?戦争でもするより仕方がない。
私に言わせれば、大東亜戦争は「食うための戦争」だったと思う。
それが戦後、ブレストンウッズ体制が発足し、保護主義ブロック経済もなくなった。
おかげで日本は食えるようになった。資源を世界から輸入し、加工品を世界中に輸出して今日の隆盛に至ったのである。
もしも世界がいまだに保護主義であり、ブロック経済であれば、今日の日本もない。
同じことをやったのが東側諸国であり、これは崩壊してしまった。共産主義の至るところである。

グローバリズムは、戦争を起こさないために、必要な制度でもあるのだ。
ただし、そのかわり、経済戦争は起きる。
その敗者は惨めなことになるが、しかし、それでも、本物の戦争よりは、遥かにマシなのである。

泣き言を並べる前に、まず働け。そういうことになりそうである。