Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

匿名投稿

「匿名投稿」デブラ・ギンズバーグ

主人公のエンジェルは、美人で読書が好きで、書店で働いていた。しかし、残念ながら、その書店も閉店のやむなきに至る。
エンジェルは、そこで次の職を、出版エージェントに定める。
その女社長は極めて自己中心的な性格で、人使いは荒いなんてものじゃなかった。
おまけに、ひどくエネルギッシュで、本人は食事も睡眠もろくにとらないのにピンピンしているのだ。化物である。
そのため、オフィスでは、誰もが長持ちしないのだ。
エンジェルも、クタクタになるまでこき使われる。
しかし、やはり彼女には才能があった。
エージェントに送られてくるのは作品の最初の50ページだけだ。その50ページを読んで、その作品を扱うかどうかを決めるのである。
出版エージェントは、優秀な作家の作品を扱い、版権や映画化権を作家本人に代わって出版社に売り込んで、手数料を得る仕事である。
エンジェルの下読みの能力は素晴らしく、確実にヒット作品を発掘した。
女社長はエンジェルを気に入り、別格の扱いでニューヨークに連れていく。
一方、エンジェルのもとには、奇怪な原稿が届き始める。
よく書けているのだが、どう考えても、自分たち出版エージェントの内部を書いているとしか思われないのである。
エンジェルは女社長に相談するが、女社長は、有力な作品であれば、匿名のままで契約を結ぼう、と言い出す。
そのエンジェルのもとに、匿名投稿作品の最新作が届く。
それは、なんとオフィス内で殺人が起こる、という内容であった。

そして、ついに事件が起こる。
エンジェルは、匿名投稿作品の作者を発見した。。。


なかなか、面白い作品である。
特に、作品中にでてくる「50ページの応募作品」が面白い。
「箸にも棒にもかからない」のはそのように(笑)「手を少しいれれば、相当に有望」なのは、まさにそのように書かれている。
この作品自体が、作者が途中放棄した作品をそのまま生かしたのではなかろうか?(笑)
そのくらい、それぞれの作品の書き分けが絶妙で、まさに1冊で3冊4冊読んだ気分にさせてくれる。
読書好きのツボをつきまくった作品である(笑)

というわけで、☆☆である。

ところで、この出版エージェントなるもの、日本にはない。
物書きが、作品を出版社に売り込むのは、物書き本人がやることになっている。
ところが、物書きは、ものを書くのは得意だけど、ものを売り込むのは大概苦手である。
そして、出版社の仕事は、基本的に本を売ることである。
そのためには、優れた作品を発掘する必要があるので、新人賞などを設けているのであるが、基本的にはその出版社で売れそうなものしか、取り扱わない。
何が売れそうかという判断は、勝手にその編集者が行うのである。
つまり、物書きは、どの出版社がどんな作品を売りたがっているかを見抜いて、その出版社に応募しなければ、チャンスがないわけだ。
そりゃマーケッターの仕事であって、ライターの仕事ではないでしょ。というのが米国流である。
出版エージェントは、作品を物書きから受け取ると、その作品にピッタリの出版社を探し出して売り込んでくれるのだ。
もちろん、前途が有望であれば、作品をオークションにかけて契約金を釣り上げる。
こうして、作家の代理として、作品を売り込むのが仕事なのだ。
荒削りで売りにくいと判断すれば、作家に書き直しを命じることもある。出版エージェントにとっては、作品を売ることが正義なのである。

このシステムは、なかなか良いと思うのである。
作家本人が、出版社と交渉するのが苦手な場合は、日本では作家がプロダクションを作ったりする。
しかし、プロダクションは、一人の作家のためだけに存在する。
「作品を売り込むのがうまい」人がいたら、その人の才能を一人の作家のためだけに使うのはもったいない。
あまねく作品を扱わせて、ばんばん出版社に売ってこそ、文化の花が開くというものである。
どうも、現状の日本の出版界の制度で考えると、物書き側のほうが不利だと思うのである。
物書き側に立ってくれる人もいなければ、バランスが取れないのではないか。

米国では、日本のような出版不況はない。
理由は単純である。
米国は、作家の力が強い。よって、当初は安かった電子出版の価格が上昇した。その結果、ペーパーバッグとの価格差が殆どなくなってしまったのだ。
それで、読者は紙の本に回帰したのである。
紙の本は、手軽だし、読みやすくて、所有欲と読み終えた満足感を与える。「次の本」を買いたいと思わせる力がある。

翻って、日本はどうか。

今日の出版不況を招いた原因のうち、いくぶんかは、他ならぬ出版社自身に原因があるのではないか、と思うのである。