Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

四十八人目の忠臣

「四十八人目の忠臣」諸田玲子

主人公は、江戸時代、浅野家の正室阿久里に仕える侍女のきよである。
浅草小町とうたわれるほど、容色のすぐれた娘であった。
当時、嫁入り前に武家に奉公に上がるのは、行儀作法一般を習得するのに都合がよく、嫁入り道具のひとつくらいに考えられていた。
きよも、もちろんそのつもりだった。
そのきよが、殿様の近習である磯貝に一目ぼれをする。
磯貝もまた美男子として聞こえの高い若武者であった。
町娘のきよと、武家の磯貝では身分が違うが、ふたりはゆくゆく一緒になろうと誓い合う。
ところが、そこに大事件が起こる。
「松の廊下」で有名な浅野候の刃傷事件である。

浅野家はお取りつぶしの憂き目にあい、阿久里は出家し瑤泉院と名乗る。
きよは、そんな瑤泉院を痛ましく思い、改めて彼女に忠節を尽くすことを誓う。
かくして、きよは、瑤泉院の耳目となって、大胆にも吉良家に奉公にあがり、吉良上野介の動向を聞き出すのである。
しかしながら、あだ討ちをするということは、恋人の磯貝の希望であるが、その希望が果たされれば、磯貝は死ななければならない。
きよは悩むが、磯貝のためにも、なんとかあだ討ちを果たさせてやりたいという心境に至る。

そして、見事、あだ討ちは決行された。
江戸の町は快挙に沸き立ち、世論は四十七士の無罪放免を求める。
しかし、幕府は、1ヶ月以上も逡巡したあげく、ついに彼らに切腹を命じた。

きよは、そこで再び瑤泉院に会うが、彼女は、志士たちに劣らぬよう自分たちもやらねばならない、それはお家再興だと言う。
きよはそこで奮い立ち、伝手を通じて、大奥に採用されることに成功する。
彼女は、そこで将軍直訴を考えていたのだったが、意外なことに六代将軍家宣に見初められて側室になる。
やがて男子を出産。その子が、七代将軍家継となる。
寵愛を受けたきよは、月光院と名乗り、大奥で権勢を振るうようになる。
そんな月光院の希望も、家宣はお見通しであった。
浅野家は、旗本として再興され、阿久里とおきよの悲願はかなえられたのである。。。


NHKでドラマ化された小説である。
かの有名な四十七士について「実は、四十八人目の士がいた。それは、女性で、阿久里の侍女だった月光院である」
という説である。
かなりの説得力があると個人的には思う。
小説としても、非常に完成度が高い。
忠義と愛、恋人の悲願が切腹につながってしまう葛藤など、矛盾の狭間で悩むきよの描写が胸に迫るできばえ。
☆☆である。

実は、浅野候の正室、阿久里が討ち入りに助力をしていたのは、かなり確度が高いと思う。
証拠は金である。
四十七士があだ討ちをするには、資金が必要である。
その資金を阿久里が提供している。大石は、討ち入り前に、明細書を作成して阿久里に届けているのである。
過去の精算金とともに「もう資金は必要ありません」という意味であろう。討ち入りを決行するのだから。
そして、その阿久里の侍女をおきよ、後の月光院がしていたことも事実である。
とすると、そこに一本の線があったという想像は、実に説得力があるではないか。
これは、著者の着眼がすばらしいと思うのである。
男は、すぐにチャンバラをする連中ばかりに目を向けるが、女は女に目を配る。なるほど、と思う次第である。