Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

球界消滅

「球界消滅」本城雅人。

連休中は、実家で物置を片付けて、老親とゆっくり過ごした。
この歳になっても、母の手料理を食べさせてもらえることは、大変ありがたいことである。

そんな、のんびりとした休暇中に、肩のこらない小説をと思って手に取ったのがこれ。
一応、実名は避けてあるのだが「横浜ベイズ」だの「東京ジェッツ」だの、まあ、だいたい実在球団がわかるわけである。
札幌の球団の親会社は食品会社になってるし(笑)
そういう、現実と極めて似通った世界で、ある日、日本からプロ野球が消える話である。
アメリカの大リーグに合併されてしまうのだ。

アメリカ大リーグの規約には、8球団あれば、あらたな地区として加盟できる、という規定があるらしい。
この規定に目をつけた牛島というやり手の東京ジェッツのフロントが、この合併を仕掛ける。
日本で4チーム、韓国で2チーム、中国もしくは台湾で2チーム、合計8チームでアメリカ大リーグの極東地区として加盟してしまおう、というのである。
日本のプロ野球をめぐる経営環境は厳しく、数年前のオリックス-近鉄の合併は記憶に新しい。
親会社にとっても、年間30億円を超える負担は軽くない。
しかし、一度球団を持つと、テレビCMとは違って、やめられないのである。
やめれば、世間から猛批判を浴びて、不買運動にも発展しかねない。
その上、球場使用料も高額で、球場における各種グッズの売上も、ほぼ球場に持っていかれる。
これでは球団経営が苦しいのは当たり前である。

しかし、MLBは、これらの仕組みが全く違う。ビジネスとして、非常に優良なブランド価値を誇るのがMLB球団である。
ケーブル配信料金がMLB機構に入り、各球団に分配される仕組みや、各種グッズにかかる版権なども、すべてMLBの収入である。
自治体は、わざわざ球場を建てて、格安で球団に貸し出す。
条件が悪ければ、球団は出ていってしまう。
MLBの球団は、ヤンキースとかドジャースとは呼ばれない。NYとかLOSという都市名で呼ばれるのである。
球団があることで、大きな経済効果が生まれて、都市の経済に貢献している。
しかも、MLBは、米国連邦裁判所が唯一認めた「独占禁止法が適用されない」団体なのである。
その力は強大なのだ。
最初は、日本の球団を残してほしいと主張していた日本のファンも、いつしか「メジャーと戦う日本球団がみたい」と変化していく。

そして、ついに日本の球団は4球団となり、MLBに加盟する。
もっとも、そのようなグローバリズムに反対する関係者、選手もいる。
彼らが選んだのは、独立リーグでのプレーという道である。
かつてとは比べ物にならない、ささやかなビジネスであるが、しかし、それでも野球をする幸福はあるのだ。。。


大変な労作で、著者のMLBに関する知識には圧倒される。
日本のプロ野球MLBの違いが、実は選手層の違いだけでなく、もっとも大きいのがビジネスのやり方そのものであることを痛感させられる小説である。

つい先日、フランスの大統領選挙の結果は、中道派のマクロン氏の勝利に終わった。
移民反対を訴えた右派のルペン氏は敗北した。

私自身は、正直にいえば、別段ルペン氏を評価していない。同様に、トランプ氏もそうである。
グローバリズムに反対するのは良いが「移民さえ排除すれば、すべての問題が解決する」というのはマヤカシであろうと思うからである。
実際に、東京を見ても、外国人労働者がいなくなれば、飲食業もコンビニももう回らないのではないか、と思う。
日本人にカネが落ちないからダメだというが、実際には、そういう職場には日本人は来ないじゃないか。
給与を上げれば来るだろうが、そうすると、物価は今まで通りではないだろう。
脱デフレで良いと思うかもしれないが、経営的に見れば、単にコストアップを価格転嫁しただけなので、コストプッシュ型の値上げということになる。
付加価値が増えていない。なので、これだとインフレ不況に陥るだろうと思う。

外国人労働力を圧倒的に使いながら、かつ、経済を強化し、自国民も守るドバイのような例もある。
ようは、経営の仕方だと思うのである。

戦前戦中を思えば、世界がブロック経済を行っており、そのような経済圏を持たなかった日本は苦境に陥った。
それが満州進出につながるのである。
食えなければ、海外だろうがなんだろうが、押しかけるし、売り込みもする。
相手もそうするので、そこをうまく捌く必要があるわけである。
自国で鎖国のようなことをすれば、相手も必ず報復するから、経済は停滞し、その結果食えない国民が増える。
外国人が来るから食えなくなるのではなくて、食えるからやってくるのだ。
何を食わせて、何を売り込むか、そこを工夫しなければならない。

野球だって同じことなのだ、と思う。
日本のトッププレーヤーが、次々とMLBに移籍するのは、考えようによっては選手の輸出である。
実際に、そのおかげで球団は移籍金を受取って、金儲けになっているのである。
しかし、翻って考えると、数十億の移籍金を支払い、たまげるような年俸を支払っても、MLBのビジネスは成り立っている。
そもそも、そのビジネスの仕組みをまず理解して、日本の野球の魅力を高めるような工夫をすることが先だ。
単にMLBに「喝」をして、日本の野球のほうが優れている、と自慢してみたところで、何も始まらないのは言うまでもない。
日本に籠もって自画自賛するより、世界と戦える力を身につけるほうが先ではないかと思うのだ。

どうも、最近のテレビなどで「日本ってすごいですねー」という調子の番組を見ていると、気持ちが悪いのである。
昔の日本は、そんなことを、わざわざ誇るまでもなかった。
誰が見ても「日の出の勢い」だったからだ。

物事が停滞しだすと、ついには「俺は本当はすごいんだぞ」と言い出す。(誰も言ってくれないから)
そんな日本の有様をみていると、ほんとに先々心配になってくる。
外国はすごい、我が国はまだまだだ、と言っていたほうが、よほど日本人らしいし、それをバネにして頑張ってきたのである。
そんな日本が、私は好きなんですがねえ。