Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

夏の沈黙

「夏の沈黙」ルネ・ナイト。

ヒロインのキャサリンは、テレビのドキュメンタリー番組のプロデューサーとしてバリバリ働いている。
49才になった彼女は、息子のニコラスの独立を機に夫のロバートと一緒にこじんまりとしたメゾネットに引っ越す。
ところが、その新居に一冊の本が届けられた。
彼女は、その本を読んで驚愕する。
それは、息子の幼い頃に、海岸で起こった彼女自身の出来事について書かれていた本だったからである。
そのことは、誰にも内密にしてきたはずだった。

実は、本を書いたのはスティーブンであり、キャサリンがひた隠しにしてきた事件で死亡した青年の父親だったのである。
本の作者は、スティーブンの妻のナンシーだ。
彼女は数年前に亡くなっている。
ティーブンは、遺品整理をしていて、その彼女の原稿を発見した。
そこには、彼らの一人息子、ジョナサンの死の真相が書かれていたのである。

ジョナサンは、海岸で美しい女性と知り合う。それが若き日のキャサリンだった。
幼い息子のニコラス、夫のロバートとともに避暑にきていた彼らだが、夫のロバートだけが仕事のために一足先に帰ることになった。
そのわずか2日間を、人妻の実でありながらキャサリンは旅先の一夜の恋の相手として、ジョナサンと過ごす。
しかし、ジョナサンは哀れにも彼女に本気で恋心を抱いた。
その一夜の恋の翌日、幼いニコラスはひとり海でボート遊びをし、潮に流されてしまう。
恋をした相手の子供を助けようとしたジョナサンは海に飛び込み、ようやくニコラスを助けたものの、自分は力尽きて溺死してしまう。
事情が事情なので、キャサリンは何食わぬ顔をして、その後の一切を夫には秘密にしてしまった。

父親のスティーブンは、息子の死の真相をキャサリンの夫に知らせることで、無念の復讐を果たそうとする。
職場に届けられた本を読んだロバートは激怒し、夫婦は別居するに至る。
復讐を果たした気になったスティーブンのもとに、キャサリンが現れて、あの夏の海岸で起きた事件の真相を打ち明ける。
ティーブンは、そこではじめて、妻と息子の隠された一面、実は自分でもうすうす気づいていたが見ないようにしていた一面を知るのである。。。


著者は本作がデビュー作だそうだ。
実にしっかりとしたストーリーに驚かされる。
事件の真相がどんでん返しになっているのだが、そこに至る経緯、スティーブンとキャサリンのそれぞれの心理描写も丁寧だ。
物語に引き込む力は相当なものだと思う。
評価は☆。


キャサリンがロバートに、すべてを秘密にしていた理由は、あれこれと考えられる。説明はいくらでもつく。
しかし、たぶん、当事者でないと分からないのだ。いや、キャサリン本人が言うように、たぶん当事者であっても説明しきれないことがあるのだと思う。
彼女は、秘密が明らかになっていくとき、夫に共感して欲しかった。
しかし、夫は共感ではなくて、自分が納得のいく説明を求めたのである。
両者の考えていることの違いは大きい。
誤解が解けたあと、キャサリンが選んだ道はやむを得ないことだろうと思う。

この話だが、どうも男女の間に普遍的にあるギャップのような気がしてならない。
女が話すとき、それは共感を求めている、理解して欲しいという場合がよくある。
なのに、男は話をきいて「じゃあ、どうすればいいんだ?」と解決策を求めてしまう。
女が求めているのは、解決策ではない。
だけど、男は「理性的に対処して」「物事を解決する」のが正しいと思っている。
結果、二人の間の問題は何も解決しないわけだなあ(苦笑)

ああいった、こう答えたの話の前に、まず話をする(聞く)スタンスをどうするか、のほうがよほど難題なのである。
相手の言うことを何が何でも否定してやろう、論破してやろうと待ちかまえる奴を相手にして、まともに会話を続けるのは困難だ。
単にマウントの取り合いになるだけである。
どうだ、俺のほうが詳しいだろう、お前は間違っているのだから、俺に跪け。
そんな論争を行うことは、まったく無意味で、人生の無駄遣いである。
そんなヒマがあったら、さっさと酒でも飲んで楽しく過ごしたほうが、遙かに充実している。

ネットが炎上するたびに、不毛だとつくづく思う次第ですな。