Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

インフォメーショニスト

「インフォメーショニスト」テイラー・スティーブンス。

主人公は若き女性のエッサで、職業はインフォメーショニスト。
聞き慣れない職業だが、情報収集と分析を行う仕事のようである。
依頼者は主に国際企業。もちろん、政府も発注主の候補になるが、この主人公は「報酬が不満なので」請け負ったことがない。
高額報酬のかわりに、世界中どこへでも、男でも女でもなりすまして、あらゆる場所に潜入して情報をとってくる。
そのために、高度な変装と並外れた言語能力(22カ国語がペラペラで、知らない言語でも1週間で片言程度はしゃべれるようになる)を持っている。
ひらたくいえば、スパイである。

そのエッサが、米国の大金持ちの一人娘の失踪先を探す仕事を請け負う。報酬は500万ドルの巨額である。
娘が生きていても死んでいてもいいので、とにかく行方を捜し出せと言う依頼である。
報酬の良さが気に入ったエッサは、アフリカの赤道ギニアという独裁国家に潜入していく。
実は、彼女はもともとカメルーン生まれなのだ。両親は白人だが、仕事のためカメルーンに赴任していたときの子供である。
その両親の仕事は、実はカルト教団の布教だったりする。
なので、エッサは、両親の愛情をろくに知らず、カルト組織の中で育てられ、そこを脱走して自力で運命を拓いてきた、という設定なのだ。
ゆえに、卓越した生存能力と戦闘能力を身につけているのである。

危険きわまりないアフリカの独裁国家に潜入したエッサは、何者かの襲撃を受け、依頼主が付けてくれたボディガードともはぐれ、あわや射殺される寸前のところで脱出に成功する。
依頼主の娘に関しては、どう見ても偽造としか思えない死亡報告書を手に入れた。
依頼主は、エッサの働きに充分納得したので報酬を支払うと申し出る。
しかし、エッサは納得しない。
昔の人脈を使い、真相の究明のために、再度アフリカの奥地に潜入する。
そこで、ついに意外な真実を発見することになるのである。。。


ストーリー自体は、単純な失踪人探しの話である。
しかし、それを追うインフォメーショニスト=エッサの人物の造型があまりにも特異で、そこが最大の読み物になっている。
奇妙な主人公は色々あるが、女性でここまで迫真の描写は珍しいと感心して、著者略歴を見て驚いた。
なんと、この著者のテイラー・スティーブンス女史自身が、まさにカルト教団の中で生まれ育てられたという経歴を持っているのだ。
道理で迫真のわけである。
主人公の魅力的な造型を評価して☆である。

それにしても、女性が男性に化けるというのは、主人公がやってみせるように容易なこととは思われない。
男性が女性に化けるのは歌舞伎の女形などがそうであろうが、あれだって、あの特長的な化粧でパターン化しているだけのことだろう。
とても、「普通の女性」には見えないはずである。
逆に、女性が男性に化けるのはタカラヅカのようなものだが、声にしてもシルエットにしても、やはり普通の男性にはとても見えない。

最近、LGBTという単語を急に耳にするようになったが、あれだって、外見の姿と心の不一致に悩むのが根本問題なんだろうと思う。
もしも、LGBTの人たちが、ほぼ完璧に男性(あるいは女性)に成りすますことができるのであれば、その負担はかなり軽くなるのではないか、と思う。
実際には、男に生まれた人はどこからどう見ても男にしか見えないわけで(女性も同様である)心だけが女ですと言われても、なかなか周囲が納得できたりするものではないだろう。
「人は見かけが9割」なので、致し方ない。

年を取ってくると、だんだん枯れてくるので(笑)男でも女でもどうでも良くなってくるのであるが(苦笑)そこが大問題という人も世の中に多いわけである。
それも、めんどくさい世の中だなあ、と思うのだ。

しかし、このまま、コミュニケーションがどんどん電子化していくと、しまいには性別も意味がなくなるのかもしれない。
ネット上では、自称男性でも、自称女性でも、なんでもなれるではないか。
この記事を書いている私が、実は女性であるかも分からないし、実際のところ、それで一向に問題ないわけである(笑)。
このブログは充分に成立する。
そう考えると、ネットの世界は、一足さきに性の問題を克服しつつあると言えるのかもしれませんなあ。