Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

罪責の神々

「罪責の神々」マイクル・コナリーリンカーン弁護士シリーズの最新である。

ハラー弁護士は、デジタルポン引きのラコースから殺人事件の弁護依頼を受ける。
デジタルポン引きとは、エスコートガールを派遣するためのホームページを運営し、客をつけて手数料をもらう仕事である。
まあ、あまりキレイな仕事とは言えない。
ラコースは、ホテルに派遣したエスコートガールが「部屋は空室で誰もいなかった」と連絡を受け、これを着服だと思い込んだ。
そして現場に行ってみると、当のエスコートガールが殺されていたのである。
警察は、ラコースがエスコートガールと金のやり取りでトラブルになって殺した、と疑っていた。
ハラーは、被害者のエスコートガールが旧知のグロリアだったことを知る。
彼女は、以前も何度も売春で捕まっており、そのたびハラーが助けてやった経緯があった。
足を洗ってハワイで出直す、といってロスを離れたグロリアだが、実は偽名でロスで以前の商売のまま、働いていたのだ。
ここでハラーは疑問を持つ。どうして、彼女はわざわざ偽名を使ったのだろう?
調べてみると、グロリアは他人に成り済ますための証明書も所持していた。闇で調達するとしても、かなりの金がかかる。
まるでアメリカの証人保護プログラム(重要事件の証人を保護するため、政府が偽名の証明書をすべて用意する)なみの周到さである。
ラコースの話には矛盾がなく、ハラーは彼の無実を確信する。
ラコースの弁護をすすめるにあたって、ハラーは「他に疑わしい人物が存在する」という証明を行うことにする。
グロリアの足取りを徹底的に調査員に追わせるのだ。
すると、犯人を逮捕した悪徳刑事、マルコが絡んでくる。
かれは、怪しい人間を、証拠をでっち上げてでも逮捕する人物なのである。
マルコの激しい妨害とハラー陣営の戦いが始まった。。。


ううむ、相変わらず面白い。
私は、コナリーを読む前には「まあ、面白いだろうな」と思って読むのだ。
その予想を、さらに超えて面白いのだからたまらん。
またやられてしまった。
評価は☆☆である。
本当は三ツ星でいいんだが、そうすると、次にもっと面白い作品が出てきて困ってしまうに違いない。
そうすると、評価の軸が揺らぐのでよろしくないのだが、とにかく仕方がない。
それぐらい、コナリーは困った嬉しい作家なのだ。


本書の前半で、ハラー弁護士が娘と別居していることが明かされる。
娘は、離婚した妻のところに行ってしまい、会うことも拒否されてしまった。
理由は、ハラー弁護士が保釈を勝ち取ってやった依頼人が、保釈中に事件を起こし、あろうことか娘の友人を殺害してしまったことだった。
お金のために、悪人を守ってやる仕事をしているパパはサイテーだというわけである。
この事件で、ハラー弁護士は無実の人を守ることになり、娘の尊敬を取り戻しつつある。

実は、日本でもこんな話があった。
ある凶悪殺人事件の被告に死刑判決が下り、犯人が量刑不当で控訴した。
その控訴審で、国選弁護人がついたのだが、その弁護人は一審判決を読んで「この被告人はとても凶悪なので、死刑のほかありせん」という趣意書を裁判所に提出したのである。
結局、最高裁でもこの判決は支持されて、被告は死刑と決まった。
死刑判決を受けた被告は、国選弁護人を民事訴訟で訴えた。業務をきちんと遂行しなかった損害賠償を求めたのである。
この訴えは、最高裁でも認められ、弁護士は死刑囚に賠償金を支払うことになった。

死刑囚は、最高裁でも死刑相当と認められたのだから、結果論でいえば弁護士が死刑囚に損害を与えたとはいえないのである。
しかし、その最高裁は、損害賠償を認めた。
法曹制度としては、検察が被告の疑わしい点を厳しく指摘する一方、弁護人は少しでも良い面をアピールするのが仕事である。
そして、その両者の主張を聞いて、裁判所が妥当な判断を下す、これが裁判である。
このケースのように、弁護人が「良い面」をアピールすることを放棄したら、裁判は片方の主張に基づいて行われることになってしまうから、正義の実現をする上で、損害があると考えたのである。

よく、凶悪事件の犯人に対して「こんな悪党を弁護するとは、弁護士もとんでもないやつだ」というような言説がネット上で見られる。
大きな勘違いであり、あえて言えば文明国にあらず、土人の思考法であろう。
よくよく考えてもらいたいなあ、と思う次第であります。