Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

物流ビジネス最前線

「物流ビジネス最前線」斎藤実

昨今「物流危機」という言葉が叫ばれる。
インターネット通販の飛躍的な成長、コンビニの一日4度の配送などで我々の生活は豊かになったが、モノが自然にやってくる道理はない。
誰かが、モノを運んでいるのである。それが物流である。

つい最近も、関西の大雨、北海道の大地震など天災が相次いだ。
これらの災害で孤立した場所ができると、たちまち食料や飲料水、衣料や日用品の不足が問題になる。
モノがないわけではない。交通網が破壊されてしまったために、現地に運べないのである。
物流危機は我々の生活の日常をダイレクトに脅かす非常事態である、ということがよくわかる。

そんな物流ビジネスの最前線について、私のような素人向けの概観を解説してくれるのが本書である。
物流センターや最近はやりの3PL業者(倉庫や出荷管理機能までパッケージで提供する)について、理解を深めることができる。

さて、その物流危機だが、今後の見通しを考えると、これは前途多難だと考えざるを得ない。
物流危機の原因は、手っ取り早くいえば人手不足だ。
ドライバーのなり手がない。
理由は想像のとおり、激務で長時間労働で賃金が安いからである。人手が集まるわけがない。
日本においては、従来は荷主と運送業者の力関係が極端に荷主有利であり、運賃を低く抑えられてきた経緯がある。
運送業者は最大のコストである人件費を削るわけだ。
ところが、この流れが変わってきた。
ヤマト運輸はアマゾンの荷受けを廃止した。採算に合わないから、ということで断ったのである。
一方の佐川がこれを吸収したかといえば、そうではない。佐川も「収益性の低い荷物は受けない」方針に切り替えているからである。
結局、これらはJPが拾った。
JPは、郵便物の減少というトレンドに直面しており(年賀状だって減っているくらいだ)それを埋めるのに宅配事業に注力する考えがあるからである。

しかし、それで収まるほど、ことはカンタンだとは思えないのである。
本書にも指摘があるが、2014年には、すでに65才以上の高齢者が人口の25%を超えた。
この勢いは止まらず、2030年には65才以上の人口が33%に達するだろう。
なんと、国民の3人に1人は65才以上なのだ。
こんな状況になって、果たして激務のトラックドライバーに人手が集まるか?
集めるしかない、ということになれば、これは更に賃金を上げるしかない。
どうしたって、これは価格に跳ね返るしかないのである。
一方で、買い物難民の発生に対応するネットスーパーの成長などを見越すと、ますます物流への依存は高まりそうだ。
物流危機は、まだこれから、という段階だと考えるほかない。


評価は☆☆。
これからの世の中について、たいへん示唆に富んだ内容である。
私はIT業界の端っこでメシを食わせてもらっているのだが、従来、物流分野にITはさほど活用されていない。
人手が中心でモノを運ぶというリアルな仕事にたいして、ITはネット通販のようなバーチャルな世界で発展してきた。
しかし、これからは、そうではないと思うのである。
成長する分野であれば、必ずITを活用するはずだ。
物流分野でもっとIT活用が進むのは間違いないだろうと思う。
再配達問題や、入庫にあたっての手待ち時間の発生などについて、ITが出来ることは数多いだろうと思う。

久しぶりに、真面目にビジネスを考えてみたくなる本である。