Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

最低の軍師

「最低の軍師」箕輪諒。

千葉県の「臼井城の戦い」で唯一、歴史に名を残す軍師、白井浄三と松田孫太郎を主役に据えた物語である。
上杉謙信という人は滅茶苦茶に戦に強かった人物で、まさに「軍神」とでも言う他ないのだが、その謙信にも数少ない負け戦はある。
もっとも手ひどくやられたのがこの「臼井城の戦い」である。

関東出兵を繰り返す謙信は、同じく関東を勢力圏にしていた北条と衝突を繰り返す。
1566年、関東に出兵した謙信は、一直線に小田原城を攻める策を取らず、軍を三方面に分けて、まず関東一円を支配下においてしまい、その勢力を糾合して小田原城を攻める、という雄大な構想を立てる。
河田長親を主将とする部隊が下総の臼井城に侵攻してくる。
これを迎え撃つのは臼井城主の原胤貞であり、そこに援軍として差し向けられた松田孫太郎である。
このとき、臼井城の勢力はひっかき集めて2千。援軍の松田勢もわずか150騎だったという。
対する上杉は1万5千の大軍である。
城主の原氏は「寝返り」も考えたが、お目付け役の松田が来ているので、そうもいかない。
あまりに劣勢なので、臼井城の軍師も夜逃げしてしまう。
そこで、松田は来場する途上でたまたま出会った自称占い師、その実はタダの詐欺師の白井浄三に臼井城の軍師を押し付けるのである。
当時の軍師は出陣の方角や日取りの吉凶を占うのが主な仕事なので、エセ占い師の白井浄三はうってつけの人物だった。
軍師がいないと場内の士気も上がらないので、やむなく「北条から派遣された名軍師」という触れ込みにしたのである。

ところが、このエセ軍師の白井浄三だが、嘘をほんとに言いくるめるためには、それなりにもっともらしいことを言わねばならない。
そこで、兵書を応用して「あちらの方角から攻めるが吉」だのと軍師まがいの経験を積んでいた。
松田の一直線な武士臭い考え方に辟易しながらも、浄三は詐欺師らしい手綱の数々を繰り出し、上杉軍を苦しめる。
およそ武士の風上にもおけない策を次々と立案する「最低の軍師」浄三が、大敵である上杉とついに対峙する。
浄三の策は実るか。。。


なかなか面白い。
この白井浄三なる軍師は、歴史上にこの臼井城の戦いしか名を残していない。
しかし、その相手がかの上杉謙信であり、かつ、見事に謙信を撃退したのであるから、そりゃ小説家的な想像力を刺激する素材として十分なわけだ。
おまけに、当時の豪族たちや土民の思惑もリアルに描かれている。
つまり、支配者が誰だろうと、まず自分の安全を確保してくれる者が都合が良いわけである。
松田は若くて真っ直ぐな武士なのだから、こういう考え方には内心、軽蔑を抱く。
しかし、苦労人である浄三はそのへんの機微に敏い。
こうして、このコンビがうまくハマっていく、というわけである。
評価は☆☆。
けっこうオススメである。

歴史小説の書き手も最近増えてきているが、昔と違ってインターネットの発達により調査の手間が減ったせいもあろうかと思う。
歴史好きが読んでも、それなりに読める作品が、思わぬ若い書き手によって書かれるようになったのはすごい。
歴史だけは才能よりも積み重ねの学問なので、年齢を重ねた人のほうが有利、というのが長年の常識であった。
文学の世界にも、しずかにインターネット革命は浸透しつつあるのだなあ、と感じる次第である。