Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ブラッド・ブラザー

「ブラッド・ブラザー」ジャック・カーリィ。

帯には「ディーヴァー、コナリーに比肩」とある。おいおい、マジかよ!?そりゃとんでもねえことだ!と思って読み始めた。

ニューヨークで女性をターゲットにした連続殺人事件が起こる。
田舎警察の刑事、ライダーが呼ばれる。なぜなら、ライダーはその種の事件で犯人検挙の実績があり、犯人の心理を読むことが得意と思われているからだ。
なんと、連続殺人事件の被害者は精神科医の女医のヴァンジーだった。
ヴァンジーはライダーの兄のサイコパス、リッジクリフが収容されている施設の所長だった。
ライダーがサイコパスの心理を読むのに長けているのは、兄をよく知っているからである。
兄は連続殺人を起こして施設に収容されていたのだが(精神異常なので死刑にならなかった)なぜか脱走し、ヴァンシーを殺害したと思われた。
その殺されたヴァンシーは、ライダーに謎のメッセージを残していた。
ニューヨーク市警は野に放たれた連続殺人鬼に騒然となり、ライダーはそのまま捜査に加わることになる。
懸命の捜索にも関わらずまたも被害者が出て、さらに捜査チームを率いる女性警部までもがリッジクリフにさらわれることになる。
ライダーは兄に接触するが、その兄はなんと女性警部を保護するために誘拐したのだという。
ライダーは兄の発言の真意を察した。連続殺人犯はリッジクリフではなく、別にいる。
ライダーは見過ごされていた過去の事件を調査し、その事件を担当した警官の足跡をたどり始める。
新犯人を見つけたライダーは女性警部を救出し、リッジクリフを含めて真犯人と対決する。。。


正直なところ「ああ、またシリアルキラーか」と思わなくもないし、シリアルキラーが別のシリアルキラーを追い詰めるのは「羊たちの沈黙」以来のパターンなのだ。
そういう意味では、道具立て自体に新味は薄い。
しかし、この小説の見どころは、どうしてシリアルキラーが生まれるか、その過程を描写したところだろう。
ひどい親のもとで育った子供はソシオパスというらしいが、そのソシオパスが生まれる経過を描いている。胸が痛くなるようなシーンである。
兄のリッジクリフは、親から弟のライダーを守るために、ある日壊れてソシオパスとなり、親を殺して殺人鬼となる。
そのときには、すっかり心が壊れていたのである。
人間がどうして正気を失うのか、を描き出して迫力がある。

評価は☆。
上記のようなシーンの凄さは認めるけど、小説として「ディーヴァー、コナリーに比肩」するとは思えない。
特に後半の荒い展開は気になる。


今日、あの秋葉原事件の加藤被告の死刑が執行されたそうだ。
多くの犠牲を出した事件を振り返ると、死刑はやむを得なかったと思う。
しかし、あの加藤被告の生い立ちもかなり厳しいものだった。その中で、彼はきちんと自活できていたんだけど、どんどん孤立を深めていった。
ネット掲示板という仮初の関係のなかですり減った彼はある日、爆発した。
たぶん、うそ寒い掲示板住人なんかに関係を求めなければ、彼は生き残っていたように思う。
今のSNSのタコツボの中で、誰かの薄っぺらい切り抜きや又聞きの陰謀論なんかを本気にしてしまう人と似たものを感じてしまう。
そんなものに、ホンモノはありはしないのに。
人は、ごく簡単に、道を踏み外す。
戦争になれば誰でも相手を(それも見ず知らずの)殺してしまうように、人間はタガが外れると簡単に暗黒面に落ちてしまう。
もともと、そうなる素質があるんだろうと思う。
シリアルキラーものが人気があるのは、実はこころのどこかに、そういう異常さを誰もが抱えているからかもしれない。