Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

引っ越し大名

「引っ越し大名」土橋章宏

 

この人の本は、以前に「超高速!参勤交代」を読んだ。貧乏藩の節約術を極めたような参勤交代の物語に腹を抱えて笑ったものである。あとで巻末を見てわかったのだが、その中で展開された節約術(お供を関所通過のときだけ雇って、無事に通過したら解散)のいくつかが、実際に記録されたものであることを知って、さらに笑ったものだった。

 

さて、本書の主役は片桐春之助、通称「かたつむり」と呼ばれている城の書庫番である。書庫にこもって、本ばかりを読んでいるという、今でいう引きこもりである。

そこに、主君の松平直矩に、姫路から九州の日田に転封という沙汰がくだる。幕閣の政争に巻き込まれた結果だが、姫路15万石に対して、日田7万石。なんと半減である。

さらに、ご多分にもれず藩の財政はひっ迫している。引っ越し先では収入が半分になるというオソロシイ状況で、なんとか引っ越しをしなければならない。そんな仕事の差配を誰もしたくないので、かたつむりこと片桐に「引っ越し奉行」の役目が押し付けられることになる。

驚いた片桐だが、主命に背けば切腹であり、引っ越しに失敗しても切腹である。なかば自棄になりながらも、必死で過去の文献をあさり、知恵を絞って節約引っ越し術を編み出すのであった。。。

 

相変わらず軽妙なタッチで、貧乏に立ち向かう侍の姿がユーモアたっぷりに描かれる。時代物としてみると、本格歴史小説とはまったく違ったトーンであるわけで、そのへんが時代小説の「新感覚」だといわれる所以であろうか。

評価は☆☆。肩の凝らない読み物として。

 

で、興味を持って主君の松平直矩について調べたら、驚くべきことに、実在の人物であった。生涯において7度もの転封を命じられて「引っ越し大名」という異名をとったのも、本書のままである。なるほど、潤色はたっぷりだが、おおもとの史実はあったわけだ。それにしても、よくもこんな人物を発掘したものである。

時代小説も、最近ではいろいろな新人が登場してきており、だいぶにぎやかになってきた。「こんなもの」と言わずに、楽しみたいと思う次第である。