「グルメ探偵、特別料理を盗む」ピーター・キング。
これは愉しいミステリである。作者は、ハードボイルドとグルメの両方に造詣が深いようで、読んでいるだけでニヤニヤ笑いがこみ上げてくる。
グルメ探偵は、別に食通の探偵ではなくて、レストランなどの外食産業の求めに応じて世界中から希少な食材を集めたり、新しいレシピの提案をしたるするのが本業で、早い話が「フードコンサルタント」である。このグルメ探偵が、ある日高名な料理店のオーナーシェフから、ライバル店の看板料理のレシピを盗んで欲しいと依頼される。客になって目標のレストランに行き、トイレと間違えたふりをして厨房を覗き、もちろん料理を味わい、夜中にゴミバケツをあさってレポート完成。
すると、奇妙なことに、そのライバル店の当のオーナーから「私の店をつぶそうという動きがある」というので護衛を頼まれる。
そして、グルメ人士の会で、なんと一人の客がヤツメウナギの毒にあたって死んでしまうという事件が起きる。ヤツメウナギの下処理が悪かったとか、鮮度が悪かったとなればレストランの評価は地に落ち、閉店を余儀なくされるだろう。グルメ探偵は、ことの真相を探偵のまねごとをして探り出そうと奮闘する。。。
主人公のグルメ探偵が披露してくれる華麗なるレシピの数々も愉しいが、それよりもハードボイルドに関する独白が最高におかしい。
「なぜか、ハードボイルドでは、探偵がA氏に会いに行くとB氏、B氏に会いに行くと手がかりが必ずあってC氏に話を聞きに行く。探偵がしていることは、ただ話を聞きにいくだけ。そして酒を飲み、何もしないのに勝手に美女が惚れてきて懇ろになったりする。そうして居る間に事件は解決。私もそうなってみたい」私だってそれで済むなら、今すぐ探偵家業をやるって(笑)
だけど、まったくそうなんだよねぇ。こういう書き方をされると、いかにハードボイルド小説なるものが「大人の男の童話(というか与太話)」かということがひしひしと感じられて、思わず笑いがこみ上げてしまうのだ。「ああ、アレのことだな~」という奴である。
ハードボイルド、ミステリ好きで、だけどナナメな根性しか持ち合わせていない人におすすめ。つまり、40過ぎて独身で、趣味といえばミステリ読みとレストラン程度の男なぞには、さぞピッタリであろうなぁ。
というわけで、評価は☆☆☆。
ええい、大サービスだ。
どうもシリーズ化する腹づもりもあるらしい。その手は食わんとおもいつつ、たぶん出たら買ってしまうだろうなぁ。参りました。