Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

N.Y.P.I

「N.Y.P.I」ジム・フジッリ

主人公はニューヨークの私立探偵である。思春期になりかけた娘と二人暮らし。
冒頭、ある画廊のオープンに招待される。その画廊の女主人が知人なのである。
ところが、そこで爆発騒ぎが起こる。
ほとんどの客が避難できたが、女主人は被災して、片足を失う。主人公は、無償でその捜査をはじめる。
その捜査の過程の中で、彼がどうして私立探偵の仕事をしているのかが、徐々に明らかになっていく。
主人公は、元NFLの選手だった。ある有名女流作家と結婚。子供二人に恵まれる。
ところが、鉄道事故で、妻と下の子供が目の前で轢死するという悲劇に遭遇する。
この事件だが、偶然ではない疑いがある。誰かが、突き落としたのではないか?
主人公は、それを捜査したくて、元の職業をやめて、私立探偵となったのであった。

ミステリというよりも、淡々と都会で暮らす家族の姿が描かれる小説である。
特徴的なのは、登場人物がみな、何かを失っていることである。
主人公は、大切な家族を失っている。
画廊のマダムは、大事な片足を失った。
皆が喪失を抱えながら、それでもなんとか慰めあい、生きていこうと考えている。
そういう都会の生活を描いた小説である。

評価は☆。
こういう淡々とした、静かな小説が嫌いではない。また、時々書かれる音楽にかかわる薀蓄も楽しい。
著者は、本職が音楽評論家なのだそうだ。なるほど、である。
ただし、人によっては、ずいぶん評価は分かれるだろう。
なんの謎もないし、クライマックスもない、ときめきも薄い、なんだこれ、というもの。
気持ちはわかるが、まあ、世の中にはこういう作品も存在していいのである。

読みながら気づいたのだが、どうして自分がアメリカのハードボイルド・ミステリが好きなのか、ようやくわかった。
私も、失っているからである。
ビジネス上の地位や、財産、あるいは恋愛、そして、何よりも時間。
だからといって、いまさらどうにもならないことばかりなので(苦笑)それでも日々の生活の中で、ちょっとした慰藉を求め、前を向いて生きていくほかはない。
必要な場合は、あるいはなけなしの勇気を振り絞り、ない知恵をしぼって、頑張ってみるしかないわけだ。それが、多くの人の都会の生活であろうと思う。

都会の生活が厳しいのは、競争があるからではない。もしも競争に負けたとき、誰も助けないからだ。
あなたはどうしてお金が欲しいのか?それは、あなたが困ったとき、誰も助けないからで、お金しか助けてくれないからでしょう?そう言った若き知人がいる。彼の言葉は真実だと思った。
もしも、必ず助けてもらえるなら、お金はいらないし、競争も怖くない。
しかし、実際はそうでないから、みんな、必死に自分を守らなければならない。
自分のことばかり考える人が増えると、激しい競争が起きて、皆がお金を取り合うから、お金が大事になってしまうわけだ。
最近の日本のみならず、世界をみていると、みんな「都会」になろうとしているようにみえる。
日本の地方都市がいい例ですが、みなが「小東京」を目指すわけである。
そろそろ、考え直さないとまずいことになるのじゃないか、などと思うのですよねえ。
私も年をとったんだろうか。