Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

どうすれば本当においしい料理店に出会えるか

「どうすれば本当においしい料理店に出会えるか」西部一明。

著者は、西麻布で一世を風靡した西洋料理店「ゼフィーロ」のオーナーであった。「やれることはやりつくした」として、店舗は閉店した。

その著者が、料理店側から「どうすれば本当においしい料理店に出会えるか」を書いたのが本書、という紹介をしたいが、実はそうではない。
・東京の料理店の現実
・著者の半生記
という内容である。

著者の半生は、実にドラマティックなものなのだが、それはそれでいいだろうと思う。「自分探し」で悩んでいる人は、読めば参考になるかもしれない。私はそんなものに悩まないので、ただ面白く読んだ。

それよりも、料理店の現実のほうが面白い。
著者は言う。「1%にこだわるな」。
たとえば、ある良い食材が手に入ったとする。すごく良いので、料理人は使いたい。しかし、その材料を使うと、原価が上がるために、店の利益率を圧迫する。そこで悩むわけである。
著者は言う。「そこで悩んで使っても、一ヶ月を締めてみれば1パーセントくらいだ」そして「その1パーセントが大事だ」という意見に対して言うのである。「それなら、最初から料理店なんかやるな」
おいしい料理を食べてもらいたいから料理店を開いた、その結果としての利益であって、利益そのものが目的ではない、ということだろう。
たしかに、こんな考えの経営者がいれば、その店はうまい料理を出してくれると思える。

評価は☆。

著者は、しかし言うのである。「東京の料理店の現実は、とても厳しい」それは、競争が激しいという意味ではない。食べ手もたくさんいる、日本で一番いるのである。
しかし、どんなにお客がいても、良い食材が手に入らなくては、うまい料理ができるはずがない。

農家が、汗水たらして1年間働いて、にんじんが一本20円くらいで農協に買い取られていく。年収が200万円に届かない。その一方で、さらに安い冷凍野菜がじゃんじゃん海外から輸入されてくる。
言うまでもないが、野菜は新鮮が一番うまい。朝とれたにんじんは、そのままかじっても甘い。そんな食材は東京ではない。無理をして、現地にオーナーが買い付けにいけば、その間の料理店は閉めるのか?

なんでもある東京で、実は本当にうまい食材はないのである。

日本の第一次産業の現状は、ひどいものなのだ。欧州では、もっと政府補助があるという。
だけど。。。
日本の国家予算が80兆円。そのうちの40兆円が国債の償還と借り換えだ。残る40兆円のうち、半分の20兆円が福祉に使われている。5兆円が防衛費。公共工事が6兆円。残る9兆円で、教育だの中小企業対策だの農業補助だのをする。
80兆円の国家予算は、世界の大国であり、20兆円の福祉は世界でも有数の福祉大国と言うに足る。それでも格差は拡大するばかりで、ワーキングプアは拡大するという。

東京でうまい料理店を探す。ただそれだけの話で、それでも見えてくるものはあると気づく。

ただのグルメ本とは違うという意味で、推薦されていい本だと思う。ミシュランなんかより、よほど面白いと思うのだけど。