Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

金融VS国家

「金融VS国家」倉戸康行。

壮大なタイトルにひかれて読み始めた。
が、これは、うまく編集の罠にはまった私がアホであった。つまり、本書には、そんな内容は全然(といってもいいくらい)なかったわけである。
どちらかといえば、金融と国家の歴史について、一通り説明した上で、現在の金融制度を俯瞰しよう、みたいな本。
こういう「考察本」の常として、地味な記述が中心で切れ味はわるいが、それが存在価値だろう。

いうまでもないが、貨幣の発行は現在、中央銀行が行っている。
もともとは、国家が発行していたのだが、そうすると金融と財政が分離できなくなり、財政難に陥った国家が金融秩序をめちゃくちゃにした挙げ句に処理の方法がなくなって戦争、というパターンが多く繰り返された。
それじゃあんまりだ、というので、金融と財政が分離したので、その歴史は実は短いのだそうである。
とはいえ、無茶発言を繰り返す今の金融大臣が、そんな歴史をふまえているとは思えないわけだが。

もっと言えば、国民生活が苦しくなると、財政の規模は拡大し、すると通貨に対する信任が下がって金利が上がりインフレになる。
そこでガマンしていれば、輸出が復活し、また健全に戻るはずなのだが、そのガマンは非常につらい。で、景気対策と称して財政出動を垂れ流す。すると、反動も大きく、財政破綻するほど通貨が下落して、ついには「何も買えない、こうなりゃ実力行使しかない」となって戦争なのである。
そう考えると、今の日本の不思議なところは、ゼロ金利にしているにもかかわらず、円高のまま、金利も上げられず、という状態であることがわかる。
普通は、これだけ財政状態が悪いのだから、円が下がって国債金利が上がらなくてはいけない。
すると、「まだまだ大丈夫なんじゃんか」という意見が出てくる。
それは一つの見方だが(まだ利払いができているから)、しかし、実は既に限界を突破して金利を上げられない(国債金利が上がると財政破綻するので、市中金利を安く据え置いて国債を売るほかない)とも見える。
少なくとも、円高という割には、日本に海外資金が集まっていないという本書の指摘には耳を傾ける必要がある。
歴史的に、金融センターの役割を日本が果たせないのは仕方がないとしても、まったく海外からカネが集まらない円高ってどうよ、みたいな。
財政出動しても景気が回復しないのは、変動相場を通じて政府出動の資金が海外流出してしまうからだけれども(全世界が一斉に財政出動すればケインズの言うとおりになるが)為替が逆に動くのは、基軸通貨そのものが可笑しいのだろうなあ。

評価は☆。地味ながら参考になるので、良書なのかも。
私の金融リテラシーでは、本書の内容をすべて把握することはできないけれども。

本書の中に、海外資金を呼び込めない一因として、利益に対する二重課税の問題が指摘されている。
この点は、私も過去に指摘した通りである。
日本の財務省は「法人に対する課税と個人に対する課税は別物であるから、二重課税でない」と反論しているが、このあたりは法人擬制説と実在説の相克ということになる。
日本は、実在説をとっている(税法上は)ということになる。
カネを動かす実体が自然人で、かつ、より有利な制度が海外に有る限り、理論とは別に現実は動く。
タックスヘイブンの存在なども含めて、やはり現実的な判断が必要なのではないかと思う。
しょせんお金は便利な道具に過ぎないのだから。