Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

経済学をつくった巨人たち

「経済学をつくった巨人たち」日本経済新聞社

私は、経済学を専攻したことがない。
そのためだと思うが、多くの社会科学といわれるものに対するのと同様、経済学とは疑似科学ではないか、という疑念を常に持っている。
数学者のノイマンが経済学の論文を読んで「中学生の数学じゃないか」と呆れた話や、ファインマンが「どうしてこれが科学なのか?」と言った話などが、悪しき影響を与えているのは間違いないところだ(苦笑)
で、門外漢なりに、それこそ中学生向けの入門書でも読んでみようと考えていて(だいたい、その学問の全体像は、いちばんやさしい入門書でわかるもので)手に取ったのが本書である。
経済学の祖、アダム・スミスから始まり、リカードマルクスワルラス、JSミル、マルサスメンガー、マーシャルなどの巨人の事跡が分かりやすく書かれている。
なるほど、と思う。
ちなみに、ケインズが抜けているのは、いわゆるマクロ経済学に関しては、別に分けたためらしい。

これらの古典的な経済学に共通していえるのは、これらの経済学において、人がみな「合理的な経済人」もっとも合理的に利益が出るように理性的に行動する、と仮定されていることである。
もちろん、個々の場面では、そうでないこともあるのだと思うが、長い間に多くの機会の中で、必ず合理的に人は行動するはずだ、という前提なのだ。
リカードは経済学にはじめて「限界」という概念を持ちこんだ人のようですが、マーシャルにいたって「限界効用」が現れて、限界革命がおこる。
早い話が、ある商品を買う効用は、その商品の数が増えれば増えるほど、低下していくというもの。
このあたりから、経済学に数学が登場してくる。

この限界効用について、合理的な経済人という前提に異議申し立てをしたのが、冒頭に述べたノイマンで、ゲーム理論をもとにした「期待効用」を提唱した、、、あたりからは、本書の範囲からははずれる。
あくまで古典経済学のミクロ経済学の人たちの話ということだろう。

評価は☆。
だいたい、それぞれの人がナニを述べたのか、その俯瞰はできる。
しかし、筆者が偉い先生方(大学教授のかたがた)であるためか、少々文章が硬い。
人によっては、何が言いたいのかわからない、奇妙な韜晦のような章も混じっている。誰とはいわないけれど(苦笑)

ちなみに、現在話題のTPP問題であるが、この自由貿易の効用を唱えたのがリカードである。
比較優位というやつで、自分のところで生産に有利なA,不利なB,両方の商品をつくるよりも、得意なAに集中して、余剰のAを輸出し、逆にBを輸入すれば、そのほうが利益があがる、というものである。これは一見、もっともに見える。
しかしながら、現実は、その通りではない。
たとえば、戦後の日本では、自動車をつくるメリットはなかった。工作精度が低く、すぐにオイル漏れするエンジン、弱い電装系のおかげで、頻繁にエンストする。箱根の山をエンストなしで登って「すごいな」と言っていたのである。こんな国で自動車を生産する効用はない。アメリカは、すでにすばらしい自動車をつくっていた。
日本は、トヨタやホンダ、スバルやマツダが心血を注いで技術開発をし、改良を繰り返し、また鋼材メーカーや電装メーカーも同様に進歩して、いつしかアメリカに追いつき、追い越すことができたのである。
単に、比較優位ではなくて、新しい効用を作り出す「イノベーション」こそが価値を作り出すという理論は、シュムペーターが提唱した。
本書には出ていない。
次は、そのあたりの本でも読んでみようと思っている。