Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

外科医

「外科医」テス・ジェリッツエン。

思わぬ掘り出し物を発掘した時の嬉しさというのは、宝探しと似ています。
世評の高いベストセラーを読むのは、なんとなく「話題についていくため」という世知が働いた結果であることが多いのだが(苦笑)、単に古本屋の店頭で「安いから」という理由だけで暇つぶしに買った本がアタリだったりすると、もうホクホクであります。(笑)

こういう楽しみはネット書店では味わえないもので、ネットの世界の欠点である「タコツボ化」とは正反対の行為でしょう。
まあ、私のようにエーカゲンのオーザッパな人間にとっては、もともと深く物事を追及するような深い知性など持ち合わせているわけもないのであって、そんな偶然の出会いのほうが面白いと思うのですな。

で、本書もそんないい加減に選んだ一冊。

主人公の外科医キャサリンは、2年前に連続殺人鬼にとらわれ、あわやのところで、拳銃で犯人を撃ち殺した過去を持つ。当然、正当防衛である。
彼女の心には深い傷が残ったが、ようやく仕事に復帰し、緊急病棟の外科医として多忙な日々を過ごしている。
緊急病棟の外科医というのは、ケガや事故で生死の境目にいる患者が運び込まれる戦場であり、そこで活躍する美人女医ということで、雑誌に取り上げられたりする。
しかし、その雑誌に掲載された後で、状況が暗転する。
再び、殺したはずのシリアルキラーが活動を始めたのである。
この殺人鬼は、獲物の女性をレイプしたあとに殺すのだが、そのときに腹部を切り裂き、子宮を摘出して持ち去るという忌まわしい犯行の手口から「外科医」と呼ばれている。
キャサリンのもとには、犯人からのメッセージ、そして被害者そのものまで運び込まれることになる。この被害者は一命をとりとめた。
このキャサリンを助けようと奮闘するのは、長年連れ添った妻に先立たれた刑事、ムーアである。
彼の心のこもった支援によって、キャサリンの心の中に事件以来芽生えていた男性不信が徐々にほぐれていく。
一方、ひそかに彼に思いを寄せていた同僚の女性刑事は不満を持つ。
女であるというだけで、男社会の警察の内部での昇進は難しいし、セクハラにも耐えなければならない。
その上、彼女はお世辞にも美人とは言い難い容貌であった。キャサリンに嫉妬しながら、彼女は彼女のやり方で、犯人を追い詰めるのだ。
そして、終盤。
ついにシリアルキラーは本性を現し、キャサリンを誘拐する。彼女を切り刻むつもりなのである。
刑事たちは必死にシリアルキラーの居場所を追う。
キャサリンは助かるのか、それとも殺されてしまうのか?
そして、2年前に射殺されたはずの犯人と同じ手口のシリアルキラーが、なぜ現れたのか?
すべの謎が最後に解かれて、、、

行きつく暇もないほどのサスペンス、というわけです。
おまけに、著者がもともと医者だったことがあって、外科医の手術場面の描写と来たら、正確で詳しいがゆえにオゾマシイという素晴らしさ(苦笑)
評価は☆。
エンターテイメントって、こういうもんだなあ、と。

読んでるとわかるのだが、やっぱり医者はどこかで「人間機械論」を地で行くようなところがあるようで。
誰の身体でも、開けてしまえば同じように臓器があるわけで。だからこそ、外科手術の術式というものも成立する。どこをどう開けると、そこに胸骨があります、とかね。
人間ヒトそれぞれ、とは言うけれど、一皮むけば同じような臓器があって動いている、というのも間違いない真実なわけである。
すごく即物的な世界である。
数ある職業の中でも、医者の職業感覚というのは、かなり特殊な部類に入るのではないか、と思いますねえ。


私の経験ですが、プログラマも、かなりぶっ飛んだ人が多い。何を考えているかわからないというか、対人感受性が振り切れている、というか。
仕事のストレスがたまると、そういう状況に陥る。まあ、気持ちはわかりますね。無理を言ってくるのは常に人間だし、コンピュータは言うことをきくように見えて、実はおバカなので。
周囲をみれば、バカばかりの中で、孤独に頑張る境地になりやすい。そりゃ、鬱になっても仕方がない、というようなもので。

本書を読んで、実は職業が知らないうちに形成する「職業的な人格」などというものに、思い至ったわけです。

ふと思い出したこと。
学校の教師って、どうしてああも「センセイくさく」なるんでしょうかね?
やっぱり職業的な人格なんでしょうかねえ。
オトナになった今でも、あのセンセイと、友達になりたいとは思わないわけですよ。
これもトラウマってことかなあ。