Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

開かれた瞳孔

「開かれた瞳孔」カリン・スローター。

帰京の電車の中で読んだ。著者は、大ヒットをとばしている女流ミステリ作家で、本作はその「幻のデビュー作」。
作品の質は高くても、うまく編集部の目にひっかかって、なにがしかの賞をとって上梓、デビューにこぎつけるのは簡単ではない。
「運」が大いに必要なのだ。で、のちに人気作家になり、そういった「幻のデビュー作」が発掘される。「いいじゃん」となり、当時の編集部はどこに目をつけていたんだ?となる。
出版界あるある、である。そういう非難を避けるために、文学賞には選考委員が設けられているのだ。
実際には、編集部の下読みの段階で、おおむね、どれを受賞させようくらいの話はついている。センセイには「これが良さそうです」という編集部員の注釈付きで候補作が届けられるのだ。
編集部の目に留まるには、佳作を連続受賞するのがもっとも良い。佳作が続くと「安定している」ということなので、プロにしても大丈夫だろうと編集部は思う。そう思えば「そろそろ、推しておこう」となる。
センセイの反対がなければ、すんなり決まるのである。
閑話休題

主人公は架空の街、グラント郡で小児科医をしている女医のサラ。グラント郡は田舎町なので、事件が起きた時は監察医を兼ねる。
夫は警察署長のジェフリーだが、離婚した。ジェフリーの浮気が原因だったが、ジェフリーもサラも、よりを戻したい気持ちがあるらしい。しかし、サラはより慎重な態度である。
その街のレストランで、盲目の大学教授が殺される。発見者がサラだった。彼女は双子の妹レナがおり、そのレナの職業は刑事で、ジェフリーの部下である。
レナはやっきになって犯人を追うが、なかなか手がかりがない。
そうするうちに、次に大学の女学生が襲われる。彼女はレイプされ、瀕死の状態で発見された。サラは懸命に治療を行い被害者を助けるのだが、意識を取り戻した被害者は事件のショックに耐えきれずにピストル自殺を遂げる。
被害者には、幻覚物質を含む植物ベラドンナが投与されていた。犯人は変態であると同時に、薬物の知識があるようであった。
ジェフリーは捜査をすすめる一方、サラとの復縁を考えているが、サラはジェフリーに自分の過去の事件の記録を渡す。実は、サラは昔、レイプ事件の被害者になったことがあるのだった。
サラは、ジェフリーの言葉を待っていたが、ジェフリーは犯罪記録を読んで現在は出所している犯人のところに行く。ぶん殴ってやる、という復讐心とともに、今回の事件と共通する手口が多く、アリバイの捜査のためでもあった。
結局アリバイがあったので、この男自身は容疑者から外れる。しかし、事件当時の記録を調べる中で、意外な手がかりが見つかる。
一方、サラはジェフリーの行動に幻滅して、別の男とデートすることにしたのだが、そこで事件が起こる。。。


ミステリというよりは、サスペンスである。謎解きの要素は少ないが、それぞれの登場人物の心情が交錯する有様が読み応えがある。
評価は☆☆。
なかなかおもしろいじゃないか。なんで、これが幻のデビュー作だったのか(以下 略)。

本書で大きな役割を果たすのがベラドンナで、調べてみると西欧ではそこらに自生しているらしい。どこの庭でも、ちょっと日陰だと生えるようだ。
このベラドンナの薬効成分の主成分がアトロピンとスコポラミンで、アトロピンは瞳孔の拡大効果をもつ。ただし、少量でないと死んでしまう。
本書のタイトルの「開かれた瞳孔」は、ベラドンナの作用で瞳孔が拡大した様子を表現している。
眼科医だけではなく、いささか危険ではあるが、女優さんが目を大きく見せるために点眼するケースもあるようである。瞳孔が大きく開くので、美人に見えるというわけである。
もちろん、多用すると死んでしまう。
ベラドンナの語源が「bella donna」で、「美しい女性」という意味であるのは、そういうワケなのだそうだ。
美しくなるのも命がけというわけである。健気というよりも、危ないからやめておけ、と思いますなあ。