Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

世紀の空売り


正月休みは老親のところに顔を出してきたのだが、その間に読んだのがこれ。
マイケル・ルイスは「マネーボール」を面白く読んだのが、もともと金融畑の出身である。

リーマンショックは世界中に衝撃を与え、もちろん日本も大いに影響を受けた。
未だに安倍首相が「リーマン級の出来事がない限りは消費税を上げる」つまり、リーマンショックだけは別格、というくらいである。
当時は麻生さんが首相だったが、なりふり構わない景気対策を行った。
その住宅ローン減税を使って、私は家を購入したので、麻生さんには感謝しているのだ。
まあ、それはそれとして。

リーマンショックの原因としては、サブプライムローンなどというクズ債権が米国中にお化粧をしてばらまかれまくったからだ、というのは一般的知識として知っている。
しかし、そこで大いに疑問が出てくる。
つまり、みんなが「クズ債権」だと知っていれば、そもそも債権の価格はつかないではないか。
では、その中身がクズだとみんなが知らなかったのか?
金融のプロで、生き馬の目を抜くと言われたリーマンブラザースや、JPモルガンメリルリンチ、ゴールドマンサックスが?
あるいは、最初から「ババ抜き」をしていたのなら、これらの投資銀行ではなくて、もっと違う人々(早い話が間抜けだ)が損をしそうなものだが。。。

それで、日本の自称「事情通」は、こういうのだ。
いわく、本当の被害者は、とんでもないユルユルの審査で住宅を買ってしまった米国の貧乏人なのだ、リーマンショックは「ユダヤ金融資本が貧乏人からさらに搾り取った」事件なのだ、というふうに。

で、こういう説明は日本人の自称知識人(苦笑)に分かりやすい図式を提供してくれてウケが良い(何か分かった気にさせる)が、実はぜんぜん見当はずれなのだ。
なぜって、まずアメリカの住宅ローンはノンリコースローンなので、日本と違って、住宅を手放したら借金もチャラになる。
その上、サブプライムとしてごちゃごちゃに入っていた債権は、これらの低所得層の住宅ローンの、さらに2番抵当だった。
なんでそんなことになったかというと、上昇する住宅価格を当て込んで2番抵当を打つリバースモーゲージが大量に売られたからだ。
住宅以外のクルマだのショッピングローンを、すべて住宅ローンに「一本化」します、その部分には2番抵当を打ちます、という仕組みである。
もしも支払いが出来なくなったら、住宅を手放せば、すべてのローンがチャラになる、という仕組みだ。
(もちろん、そのローン額よりも住宅価格が上がっていれば、銀行は儲かる)

著者は、こんな馬鹿げた商品が売られていた背景を、これらのサブプライムをまとめた債権のオプションを空売りしていた男達を取材することによって、逆に明らかにしていく。
言うまでもないが、彼らは債権市場の暴落によって、大儲けした人間たちである。
それが、まったくプロの投資家ではなくて、医者だったりガレージで友人と二人で「ファンド」をでっちあげた男達だったりする。
そういう、ちょっと変わり者の連中が、プロが予想もしなかった「世紀の暴落」を空売りしたわけだ。

評価は☆☆。
金融の専門用語が頻出するから、まったくその分野に疎い人にとっては読みづらいかもしれない。
しかし、用語の意味は、しっかりと翻訳されている。
意味が分かって読み始めると、結末を知っているのに、無類のおもしろさなのだ。

リーマンショックウォール街は崩壊してしまった。
そこで勝ち残ったのは、金融のメインストリームからはまったくの門外漢の連中で、しかし「こんなことが続くわけがない」という常識を捨てなかった男たちであった。
申し訳ないが、ユダヤ金融資本も大損をし、ロスチャイルドもロックフェラーも市場を支配していなかった。
大儲けした男たちはフリーメーソンともまったく無縁だった。ただ、誰でも読める新聞やネットの記事を丹念に拾っていただけだ。
世の中は、たぶん、こんなふうに出来ている。


さて、そうなると、私も考える。
日本国債はいまや1000兆円を超えていて、とても政府に返済できそうにないが、政府は倒産していない。
それを買い支えるだけの資産が国内にあるからである。
しかし、今後はどうなるだろうか?
「カネが国内で回っている限り、国債の破綻はない」「世界一の対外債権国の日本国債が破綻することはない」
それは、たぶん、日銀が国債を買い続けている限りは、真実である。
ゼノンの理屈と同じで、アキレスは決して亀を追い抜くことはできない。論理は完全なのだ、その世界では。
さんざん言い尽くされたこの議論を、私はもう一度、冷静に考えてみるつもりだ。