Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

競争と公平感

「競争と公平感」大竹文雄

トランプ大統領貿易赤字を問題視して大幅な輸入規制(関税の上昇)をかけると発表。
名指しで批判された中共が報復をするとのことで、米中貿易戦争が勃発している。
日本も、同盟国であれほど米国に服従してきたのに(!)やはり対象国入り。
おかげで東証株価はボロボロである。
まあ、アベノミクス自体が輸出企業ばかり儲かってきたので、揺り戻しが起こるのは当然かもしれないが。

トランプ大統領がしきりに強調するのは「公平でない貿易を行っているので、こんな赤字が出るのだ」という話である。
しかし、米国製品で何を買えというのだろうか?
米国の自動車で、日本で売れそうな車種はないだろう。
ちなみに、米国メーカーのドル箱はピックアップトラックで、これは他の車種と違って高率の関税がかけられている。
米国メーカーは、普通のセダンやコンパクトカーで既に他国と戦う力がないので、そっちは諦めて、日本メーカーが作らないピックアップトラックを政治的に保護してもらっているわけだ。
これを見ると、不公平な貿易をしているのはむしろ米国ではないか、と思うのだが。
まあ、日本もコメとか牛肉とか、コンニャクイモとか、あまり人のことは言えない。

それはともかくとして。
競争は市場経済の基本であるが、そのとき常に「公平」が問題になる。
市場が資源の配分に成功するのは、その競争が公平であることが条件だからである。
市場競争に負けた側から見れば「自分たちが負けたのは、競争が公平ではなかったからだ」という主張が心の慰めになるのかもしれない。
しかし、公平な競争の条件とはなんだろう?

本書を読むと、たいへん面白い。
まず、のっけから「日本人は競争が嫌い」というデータが示される。
世界各国で、競争は「マイナス面もあるが、トータルすればプラスの面が多い」と評価するのはダントツで日本人が多いのだそうだ。
あの中共ですら過半数の人が(あれほどの貧富の差があるにもかかわらず)競争を肯定的に捉えているのに、日本人は4割程度。
先進国でも最低なのである。
しかし、冷静に考えれば、日本人こそ市場競争のおかげで戦後の豊かさを手に入れたはずなのである。
思うに、高度経済成長がうまく行きすぎて「一億総中流」意識が出来上がったので、競争にネガティブな意識をもったのだろう。
もっといえば、日本は島国なので、諸外国との競争に打ち勝ったおかげで豊かな生活が手に入ったという実感に乏しいのだろうな。

本書では、競争の公平さに特別に留意したわけではなくて、非正規雇用の問題(正社員が解雇規制で守られているので、必然的に不安定化する)、高齢化の問題、最低賃金の問題、外国人労働者の問題など、政治的なテーマが分かりやすく主流経済学の立場から解説してある。
すこし行動経済学(人は不合理な判断をすることがある)に触れているのも興味深い。

評価は☆。
これなら、経済学に興味の少ない人も、気楽に読めそうである。

本書の中では、格差問題についての話が興味深い。
もともと、経済学的に格差があること自体を悪とは考えていないのである。
無理矢理、格差をなくせば、共産主義になるわけだから。
しかし「食えない」人が増えるのは問題なのだ。
一部の金持ちが大金持ちになるのは「勝手になりゃいいだろ」でお仕舞いだが、貧しい人が食えないのは問題視するわけである。
競争の結果として、必然的に敗者つまり貧乏になってしまう人は出るわけなので、そこは政治的に再分配をして救うことが大事になる。
逆にいえば、再分配をするから競争を肯定できる、ということなのである。
ところが、日本人は政治的な再分配があまりないほうが良い、しかも格差が少ないほうが良いと考えているらしい。
どうも、そう考えていくと、日本人の思想は世界一「共産主義的」なのではないか、と思われる。
「和の心」などを強調する人の話を聞くと、どうにも共産主義そのものというような主張にしか聞こえないのも納得である。
ただ、共産主義だと、一億総中流ではなくて一億総下流になるのだが。
どうも、私はごめん被りたいなあ。