Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

言ってはいけない

言ってはいけない橘玲。副題は「残酷すぎる真実」。

橘玲氏は、いわゆる市場原理主義者であり、その中でもアナルコ・キャピタリズムの立場を取っている。
無政府主義市場原理主義というわけである。
いわゆる無政府主義には2つあって、一つは共産主義の亜種のような無政府主義である。共産主義の行き着くところ、というか。ただし、無政府だと共産主義の政府を作りたい人には都合がわるい。当たり前か(苦笑)共産主義共産主義政府はイコールじゃないぞ、という主張をする点において、共産(政府)主義者にもっとも嫌われる存在である。理由は、もちろん一番都合が悪いからである(苦笑)。
市場原理主義無政府主義は反対方向に振り切れたやつで「経済的自由を突き詰めると、政府はいらねえ」という立場である。税金は「人のカネを取るのは泥ボー」という明快な理屈であって、泥ボーが「政府です」といったところで泥ボーに変わりない、いらねえという主張である。無税の政府なら居ても構わないのだが、残念ながら存在しない。
ついでながら、政府の借金は国民の資産なので問題ないというスーパーロジックがあって、それなら無税政府にすれば税はかからないわ、国民の資産は爆増するわで究極だと思うのだが、誰もそこまでは主張しないようであるなあ(笑)ま、嘘はばれるしかないのである。

さて、そういう身も蓋もない主張をする橘氏による本書は、実は雑学集であろう。
すべての人間は平等だということになっているが、実はIQはそうでもなさそうだ、などという話が冒頭の先制パンチである。
さらに、子供の成績は明らかに遺伝するとか、幼少期の教育は実は中等教育以降にはほとんど影響がなくて、実際には遺伝の影響のほうが多いとか。
さらに、家庭環境よりも圧倒的に友人のほうが本人の性格に及ぼす影響が大である、など。
まあ、言われてみれば思い当たることアリなのだが、はっきり文字にするとナチスの再来とか言われそうなので、あまり書けない類の話がてんこ盛りである。
この話を突き詰めていくと、実は本書冒頭の疑問に突き当たるので
「人を生まれつきの肌の色や体格などによって差別するのはいけない」のだが、現在の社会では財産を得るかどうかは圧倒的に知能によるところが大きい(筋力が優れているから財を築くというケースはまれ)。
それでは、生まれつき「アタマの良い、悪い」で人を差別するのはイケナイと思うのだが、どうして今の社会では「肌の色」「瞳の色」で人を差別するのがイケナイのに「知能」だけはスルーなの?という話に行き着くというわけだ。
我々の持っている人権平等神話の基礎を揺さぶろうという悪いコンタンが見えるところが、実にいやらしいわけである。

そういういやらしさが好きなので、評価は☆。

まあ、話のネタにはいいかも、なのだが。
しかし、本書は「読んでおいたほうが良い本」ではないなあ。
なぜって、本書を読んでも、アタマが良くなることもないし、お金持ちになれるわけでもない。
そして、あんまり楽しくもない。まあ、ニヤニヤできるけど。
暇つぶしには推奨である。

橘玲という人は、たいへん面白い本を書く人なのだが、新書の限界だろうと思う。
著者を知らない人には良いと思うが、こっちはもっとすれっからしなのだ(苦笑)。
さらに唖然とするような次作を期待したい、かな(笑)