Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

永遠の旅行者

「永遠の旅行者」橘玲

橘氏といえば、私にとっては日本有数の「市場原理主義者」という印象が強い。
英語で言えば、アナルコ・キャピタリズム。「資本主義的無政府主義者」という英語の表現のほうがしっくりくる。
最近の「小泉改革市場原理主義批判=貧富の差拡大」というパターンでしか理解できない人は不幸だと思う。
ほんとうの市場原理主義の魅力と恐ろしさは、そんなものではありはしないよ。

タイトルの「永遠の旅行者」というのはPT、すなわち「Perpetual Traveler」である。
たとえば、日本の税法では、1年の半分以上つまり183日以上在日する人に納税の義務があると定めている。もちろん、国籍を問わない。
最近、外国人参政権にからめて「外国人も納税している」という頓珍漢な主張が目立つが、そりゃ単にただ政府サービスの対価である。つまり、日本人だって、税金を払わない人はいるので、参政権は関係ないのである。
で、さらに一歩進めて、たとえば3カ国に年間の1/3ずつ住むことにして、どこの国にも住居などの固定的施設をおかないとすると、、、どこの国にも税金を納めない人が出来上がるワケである。
これがPTである。
お金だけを持ち、ホテル暮らしをすればいいのである。

国によっては、投資活動については無税というような国もある。香港とか、シンガポールなどがそうである。
で、これらの国にいながら日本株に投資すると、その収益は無税である。東証の「外国人投資家」の過半が実はそういう日本人の海外法人だと言われている。
極東の訳の分からない市場の株に、英米人が好きこのんで投資するはずがないでしょうが。

小説は、PTでハワイ滞在中の主人公真鍋(元弁護士)に、ある老人から依頼が持ち込まれる。
彼の孫娘に全財産を相続させるが、しかし、日本政府には一円も税金を納めてはならない、というのがその条件である。
老人の息子(孫娘の父)は、一時期羽振りがよかったものの、バブル崩壊とともに凋落し、最後はアメリカのスラム街で麻薬のために死亡している。
孫娘の精神疾患は、父の遺した巨額の負債と、祖父の遺産をめぐって大人達が暗躍することから生じている。
彼女は徐々に回復していくのだが、それはこの複雑な財産事情が解決していくのと同期している。
自由で、安らかに暮らすことは、自由に使える財産があることとイコールである。
我々にとって財産が大事なのは、それが自由だからである。

老人が日本国に税金を払いたくないのは、シベリア抑留で国家に見捨てられたという思いがあるからであった。
国の法律で悪であると見なされたことで財産を作るなら、その財産を国家に差し出したくはないし、そういう国家にも従わない。
自由であれば、お金があれば、それは可能である。

評価は☆。
橘氏のスタンスを分かっていて読むと、なお面白い。若干の国際税務の知識がある人には、やや説明が煩瑣であろうけれども。

国家が税を取り、それを再配分することで平等を復元し、そのことによって社会が安定し、結果として財の再生産を容易にするので、再び財を得ることができる。だから、国家が税を取り合げるのは正当な行為だというのが、普通の考えだろう。
しかし、現実を見てみよう。
国家は、財の再生産について、非常に効率が良くないお金の配分をするにもかかわらず、他に選択肢がない。たとえば、皇室をないがしろにする政治家のいる政府なんかにお金を出したくないと考えても、実際には脱税であるからできない。
我々の自由はいったいどうなってしまうのだろう、と思うことはないだろうか。
内心の自由なんていらない。もともと、内心は誰だって自由で、そんなものを国家に与えてもらう必要なんてない。
我々にとって自由でなくてはならないものは、自分の労働の結果生み出した富である。富を奪われることは、自由を奪われることと同じである。
格差是正といいながら(しかも、そう唱える人は、とてつもない金持ちだったりする。わるいジョークだ)財を取り上げる「正義」を、私は全く信用しない。

最近の私は、一国一制度の放棄を真剣に検討するべきだと考えるようになっている。