Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

女神のタクト

「女神のタクト」塩田武士。

30歳の女性で、男も職も同時に失って神戸に傷心旅行に来ていた女性の明菜が主人公。
砂浜で妙に上手にipodをあやつる老人の依頼で、若くしてひきこもり生活をしている名指揮者、拓人を迎えに行く。
アマオケの指導を頼みたいのだ、と嘘をついて神戸の老人がオーナーをしているオルケストラ神戸に拉致するのだ。
そこでタコ部屋じゃない寮に拓人をたたき込み、ついでに家賃タダなので自分も転がり込み、火の車でアップアップしているオルケストラ神戸の公演を職員として手がける。
会場の問題を大学教授をだまくらかして産学協同の美名のもと、格安で大学ホールを借り、そこをクリア。
曲目を公演2ヶ月前に変更してラフマニノフのP協3番にしたところ、2週間前にソリストがインフルエンザでダウン。
指揮者の拓人が、無謀にも弾き振りでこの難曲に挑むことになった。
やがて、拓人と老人の関係や、彼が引きこもりになった衝撃的な事件のこともわかってくる。
ついに公演の幕が開いた。
しかし、明らかに第一楽章のデキがよくない。
さて、公演は成功するのか。。。


軽快なテンポで運ぶストーリー。ご都合主義な展開だけど、まあ、そこは小説である。
それにしても、このタッチは、、、そう、ラノベだ!!
これはラノベなのである。
主人公の年齢が17歳じゃなくて、オーケストラが高校のブラバンじゃないというだけで、あとはラノベなのだ。

そういうわけで、評価は無☆。
だって、ラノベだもん。

面白くない、とは言わない。というか、面白い。だってラノベだもん。
オーケストラの財政事情についての説明は、なかなか良くできている。

実は、知人がアマオケにいて、その関係でよくチケットを貰う。
東京では、ほぼ毎週どこかの公共ホールでアマオケの公演がある。無料も多いし、有料といっても千円程度の公演も多い。
じゃあ下手くそか、学芸会かといえば、実はそうでない。ものすごく上手いオケも多いのである。
彼らは、貴重な休日を潰して、年間に1回か2回の公演のために練習を重ねる。
なぜそうか。
そりゃあ、音楽でメシを食っていくのは、それはそれは厳しいからだ。
良くて学校の音楽の先生であり、ピアノ教室を開ければ上出来。
ほとんどの人がサラリーマンやOLになる。
よほどの運やコネがないと、オーケストラに就職することは出来ない。
出来たとしても、ほとんどのオーケストラでは厳しい生活が待っている。
サラリーマンをしながら、身銭をきって好きな音楽をやるしかないのも事実なのである。

つい先日も、そんな素晴らしい演奏を聴いた。
さほど遠くないので、かつしかシンフォニーヒルズで。
曲目はラロのスペイン交響曲だったが、その独奏バイオリンの加我悠さんの演奏に驚いた。
超絶技巧であの難曲を弾きまくり、会場を唖然とさせたのである。
トイレ休憩に言ったら、楽器を抱えたどこかの音大の学生だろうと思うが「信じられねえ。。。」と言っていた。無理もない。
さらに、第二部ではブラームス交響曲1番のコンマスを疲れも見せず、弾きまくり。
おそるべき機関車である。
加我さんが引いて引いて引きまくり、弦パートがそれにこたえて、凄絶な演奏となった。
今年一番のコンサートであった。

多くのオーケストラが、それぞれの音楽を追究している。素晴らしい力演に巡り会えることもある。
そんなオーケストラの応援になる小説、と思えばこれもアリかなあ、と思いますなあ。