Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

燃える部屋

「燃える部屋」マイクル・コナリー

 

しばらくボッシュシリーズを手にとっていなかったのだが、この自粛GWの楽しみにネットで購入。
なんというか、安心感が違うなあ(笑)。

定年延長制度で5年間の延長期間に入っているボッシュは、新人女性刑事のソトと組む。
彼女はヒスパニック系で、スペイン語を流暢に話す。
ソトは警官時代に犯罪者と射撃戦になり、パートナーは亡くなったが、彼女は相手を撃ち倒して市の表彰を受けた「ラッキーガール」だ。
その手柄で、警官から刑事に出世した。
ボッシュとソトは未解決事件の専従捜査班となって、前市長と関わりの深かった楽士の射撃事件を追う。
楽士は、広場で何者かに射撃された。銃弾は彼の脊椎で止まり、危険なためタマを取り出すことはできなかった。
そして、後遺症で苦しみながら彼は10年後に死んだ。
司法解剖の結果、彼の死が銃弾によるものと判断されて、事件は「未解決殺人事件」となった。
取り出されたタマは、ライフルの弾だった。これは、当時の捜査では想定されていなかった。ライフルであれば、通りすがりの犯行ではなくて、明らかに狙撃されたと考えることができる。
当時の監視カメラの映像を現代のデジタル技術で鮮明にした画像を見ていたボッシュは、奇妙なことに気がつく。
楽士が狙撃されたとき、しばらく周囲の人間たちは何が起きたか分からなかったはずなのに、楽士の隣にいた同僚楽士がいち早く物陰に隠れたからである。
この同僚楽士はなにか知っているのではないか?
精力的に捜査を進めるボッシュだが、そのボッシュよりも夜遅く、朝早くから捜査に動くソト。
ボッシュはその姿勢を評価していたが、やがて、彼女が実はプライベートな事件を調べていることに気がつく。
彼女は20年前の火災事故で、生き残った子供の一人だったのだ。
彼女の住んでいたスラムマンションで、火災が発生し、地下室の保育所にいた多数の子供と保母が亡くなった。
その事件は未解決だった。
彼女の気持ちを理解したボッシュは、この捜査にも私的に協力することにする。
そして、火災事件が、同日起こった強盗事件から目をそらすための囮であり、実は放火事件であることを突き止める。
一方、狙撃事件のほうも、いよいよ真犯人にたどり着くのだが。。。


安定のボッシュシリーズ。
かつてのような、一種の絶望的な暗さは影を潜めていて、ベテランになったボッシュが若い見習いのソトに捜査を教えるシーンが目立つ。
主人公も歳を重ねたわけで、いつまでも「中年の危機」を抱えて生きているわけじゃあない。
やがて終りが来る自分の職業生活を、愛おしむように送っているボッシュの姿が描かれている。
かつてのファンが、これを自然な変化と考えるか、あるいは惰性と考えるかで、評価は180度変わるだろうと思う。
私は、この変化はアリだと思っている。
私自身が、このシリーズを読み始めた頃から歳をとったからだ。
作者も、主人公も歳を重ねて、やっぱり物事の終わりに近づいている。
馬鹿げた苦労ばかり重ねてきたように思っていた仕事も、今になってみれば、ずいぶん多くの経験を積んで、駆け出しの連中には負けないスキルが知らないうちに身についているわけだ。
何がしかの感慨を抱いても当然である。
しかし、物語は、もちろんそんなボッシュに平穏な引退を用意してはくれない。
波乱でラストは終わる。
ボッシュの殊遇がどうなるかは、次作を読まねばならないわけだ。

 

こういうシリーズものは、長く付き合っていると、どうも自分の人生と一部が同化している。
過去作のアレを読んでいる時は、自分はこうだったな、などと思い出すわけである。
どうも、あまり良い思い出はないのだが、そんな日々でも、今となれば懐かしく思う。
こうなると、もはや評価うんぬんではないのである。
自分の人生を評価することはできないからだ。
そりゃあ、他人がすることであって、自分の人生は生きるしかないわけであるからね。