Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

IQ

「IQ」ジョー・イデ。

 

アフリカ系アメリカ人のアイゼイア・クインターベイはそのイニシャルをとって「IQ」と周囲の人に呼ばれている。
ミスターIQというわけだ。彼は、ひどく頭脳が優秀なので有名なのである。

IQには、かつてマーカスという、とても優秀な兄がいた。彼らの両親は早くに亡くなった。
そこで、なんでもできる優秀な兄のマーカスは、みずからの進学を諦め、当然のように色々な仕事をしてIQを支えていた。自身もきわめて優秀な頭脳を持ち、かつ、手先が器用でどんな仕事も人並み以上に優秀にこなす兄マーカスは、IQに「なんでもなりたいものになればいい」と言っていた。
その兄が、ある日、IQの目前で猛スピードで走ってきたクルマに轢かれて死亡してしまう。クルマはひき逃げし、犯人は見つからなかった。
IQは兄との思い出の残る部屋を出てどこかの里親に養子にやられる未来を避けるため、周囲に兄の死を隠し、素知らぬ顔で高校へ通い続ける。(結局は中退することになったが)
しかし、そうなると問題はカネだ。IQは色々なアルバイトをしたが、高校生の余暇時間のアルバイトで自活するのは難しい。
そこで、同じ高校で問題児のドッドソンを部屋に泊めることで宿泊費をもらうことにした。ドッドソンは親に追い出されていた。彼が麻薬の売人稼業に手を出していたからである。
しかし、それもうまくはいかない。そこで、ドッドソンはIQに「手っ取り早く儲かる仕事を考えろ」と持ちかける。IQは最初は拒否するが、そうすれば二人共倒れだと説得され、ついに窃盗のアイディアを出す。
IQのアイディアとは、普通の小売店の「小さく軽く、金額が張るもの」を盗み出し、自分たちでネットでコツコツ売り払うものだった。
そういう店は貴金属店や自動車ディーラーよりは警備が軽く、6分以内に逃げ出せばつかまらない、と。
彼らは高価なペット用の医薬品、釣り竿、自転車の部品(シマノデュラエースだ)を盗み出し、少し時間はかかるが、やがて充分なカネが回りだす。
しかし、途端にドッドソンは女をつくって連れ込み、金遣いが荒くなる。ドッドソンは「仕事」のペースを上げろとIQに要求するが、IQは危険を承知しているので同意しない。二人の仲は徐々に悪化する。
そして、ある日、ついにドッドソンは麻薬の売人の運ぶカネを奪うべく襲う。当然、ボディガード連中に反撃にあい、ついに死を覚悟したところでIQが助けにやってくる。。。

そして数年後。
IQは私立探偵になっている。そこにドッドソンは案件を持ってくる。
カリスマ的な大物ラッパー、カルの警備である。カルは、自分は別れた元妻に狙われているというのだ。
そして、IQとドッドソンがカルの邸宅に訪問したとき、何者かが邸宅に恐ろしい犬を放つ。ピットブルとなにかの混血で、60KGあるという恐るべき魔犬である。
犬嫌いのドッドソンは必死に逃げてプールに泳ぎ、犬は諦めて逃げていく。
誰が犬を放ったのか?
警察もわからない謎をIQが解く。そんな犬を飼っている人間は珍しいから、絶対に見つかるというのである。
そして、IQの考えどおり、おそるべき魔犬を飼っている殺し屋がみつかる。IQは命を狙われることになるが。。。


ジョー・イデは日系アメリカ人の作家で、この作品がデビュー作だ。彼自身が色々な職を転々とする人生であった。
そして50代の後半になり、ついに、子供の頃から好きだったホームズ譚への尊敬を込めた作品を書いたのが本作である。
もちろん、ホームズへのオマージュはたくさん出てくるのだが(魔犬は明らかに【バスカヴィル家の犬】だ)そんなことは知らなくて問題ない。
とにかく、抜群に面白いのだ。
アフリカ系アメリカ人たちの会話のテンポや文化、ドッドソンの悪人だか善人だかわからない立ち位置、IQの頭脳の冴え。登場人物が生き生きとしている。
評価は☆☆☆。
続編が出たら、絶対に読みたい。

本作はハヤカワ・ミステリ文庫である。
さすがハヤカワで、良い作品を見つけてくるなあと思うばかり。まあ、新人賞3賞を総なめにした作品らしいから、当然なのか。
しかし、この出版不況で、海外の新人ミステリ作家の作品を翻訳出版するのはさぞ勇気が必要だったであろう。
こんな出版社が、どうにか生き延びていけるような社会であってほしいと願うばかりである。
最近の出版界は、日本と言わず、全世界的にやばいらしいから。
時間をかけてコツコツと活字を読む文化自体が、このスマホが普及した社会で廃れつつあるのかもしれない。
かわりに動画か、中身がスカスカの。
なんだかなあ、と考えたりするのは、たぶん、私がもう「年寄り」の部類に入りつつある証拠でしょうなあ。