「密封」上田秀人。
海外小説ばかり読むのに飽きたので、久々に和物と思った。
しかし、古典は読むのに骨が折れる。日本人のくせに、情けないことである。
で、妥協点が「時代小説」。いい加減な男ですなあ(泣)
この上田秀人氏の奥右筆シリーズだが、「このミス」をまねた「この時代」で1位だそうだ。
読めばなるほどで、すれっからしの時代小説好きのツボを突くようになっておるのである。
まず、時代設定は「オットセイ将軍」家斉の時代。なにしろ、じゃんじゃん側室をつくり、実に53人の子をもうけたという剛の者である。(笑)
私なんぞ、それだけで平伏、土下座である。
で、この著者の憎いところは、さらに老中松平定信の「寛政の改革」の引退後という設定になっていることだ。
並の小説書きならば、寛政の改革中の話にすると思うのだが、そこが「すれっからし」向けたるところである。
主人公の奥右筆という職は、いわゆる右筆(主君の代筆をする)だが、幕府の中では事務方の総本山で、部屋頭ともなれば役得も多い。
つまり、各種の決済願いに注をつけるわけで「不許可」とやられると皆困る。だから、なにかと心付けがくる。
主人公の立花併右衛門は、ようやく奥右筆組頭になって貧乏暮らしから脱出をできると喜んでいるところである。
一人娘がいるが、妻には先立たれている。
その奥右筆あてに、田沼家から末期養子の願いが出る。
有名な田沼意次の孫が突然、赴任先で死亡したのである。
普通に認められるケースであるが、立花はその死に疑問を持って、調べはじめる。
田沼意次の息子は、江戸城内での刃傷事件で殺されている。
有名な「松の刃傷」事件でも同じであって、江戸城内での刃傷事件はお家の廃絶処分だが、しかし事件関係者の処分が軽いのに疑問を持つ。
すると、主人公は、城内からの帰路で何者かの襲撃を受ける。
困った立花は、隣家の次男、柊衛悟に護衛を依頼する。
立花は、この事件の真相を探り始めるが、それは幕府の暗部につながる話であった。
既に引退していた松平定信と将軍家斉も含めて、大きく事態は動き始める。
たいへん面白い。
評価は☆☆。さすがに「この時代」1位である。
著者はプロ小説家ではないようで、なんと本職は歯科医らしい。
そのかたわら、ぽつぽつと書いた小説がこのようなヒット作となった。
才能がある人物が市井に埋もれていたものである。
どうやら、本人がかなりの時代小説マニアなのだろう。細部の書き込みが面白いのである。
ミイラ取りがミイラになるというのか、あるいは病膏肓に入るというのか。
こんなパターンもあるんだねえ。
世はインターネット時代である。
情報は、あっという間に誰でも手に入る。時代小説などは、書きにくい時代になったと言えるだろう。
すぐに「史実と違う」とかいう批判が山のように入るだろうからである。
そこを、著者は「史実ではないが、いかにもありそう」な話を書いた。
これはすごい。つまり、時代小説マニアで知識豊富であればそれだけ面白い、という作品になったからである。
フィクションなのだが、豊富な知識に裏付けられた「ありそうな」フィクションなのだ。
インターネット時代の小説とは、こういうものなのかもしれないなあ。
逆に言えば、付け焼き刃で、本人が知らない分野を短期間に猛勉強して書くような職業ライター的スタイルは、通用しにくくなっているのかもしれない。
ホンモノ感がないから、読者を惹きつけることは難しいだろうと思うのである。
そういう目で最近の小説家を見てみると、医者が医学ミステリを書いたり、教師が学園モノを書いたりするケースが増えているなあ。
刑事が刑事物、というのはまだないようだが、そのうち出るかもしれない。
自衛官が戦争もの、というは浅田次郎かな。ちょっと違うか。
なんにせよ、面白い小説が出るのは読者として楽しいことだ。時代小説ファンとして、著者の健筆を期待する。
海外小説ばかり読むのに飽きたので、久々に和物と思った。
しかし、古典は読むのに骨が折れる。日本人のくせに、情けないことである。
で、妥協点が「時代小説」。いい加減な男ですなあ(泣)
この上田秀人氏の奥右筆シリーズだが、「このミス」をまねた「この時代」で1位だそうだ。
読めばなるほどで、すれっからしの時代小説好きのツボを突くようになっておるのである。
まず、時代設定は「オットセイ将軍」家斉の時代。なにしろ、じゃんじゃん側室をつくり、実に53人の子をもうけたという剛の者である。(笑)
私なんぞ、それだけで平伏、土下座である。
で、この著者の憎いところは、さらに老中松平定信の「寛政の改革」の引退後という設定になっていることだ。
並の小説書きならば、寛政の改革中の話にすると思うのだが、そこが「すれっからし」向けたるところである。
主人公の奥右筆という職は、いわゆる右筆(主君の代筆をする)だが、幕府の中では事務方の総本山で、部屋頭ともなれば役得も多い。
つまり、各種の決済願いに注をつけるわけで「不許可」とやられると皆困る。だから、なにかと心付けがくる。
主人公の立花併右衛門は、ようやく奥右筆組頭になって貧乏暮らしから脱出をできると喜んでいるところである。
一人娘がいるが、妻には先立たれている。
その奥右筆あてに、田沼家から末期養子の願いが出る。
有名な田沼意次の孫が突然、赴任先で死亡したのである。
普通に認められるケースであるが、立花はその死に疑問を持って、調べはじめる。
田沼意次の息子は、江戸城内での刃傷事件で殺されている。
有名な「松の刃傷」事件でも同じであって、江戸城内での刃傷事件はお家の廃絶処分だが、しかし事件関係者の処分が軽いのに疑問を持つ。
すると、主人公は、城内からの帰路で何者かの襲撃を受ける。
困った立花は、隣家の次男、柊衛悟に護衛を依頼する。
立花は、この事件の真相を探り始めるが、それは幕府の暗部につながる話であった。
既に引退していた松平定信と将軍家斉も含めて、大きく事態は動き始める。
たいへん面白い。
評価は☆☆。さすがに「この時代」1位である。
著者はプロ小説家ではないようで、なんと本職は歯科医らしい。
そのかたわら、ぽつぽつと書いた小説がこのようなヒット作となった。
才能がある人物が市井に埋もれていたものである。
どうやら、本人がかなりの時代小説マニアなのだろう。細部の書き込みが面白いのである。
ミイラ取りがミイラになるというのか、あるいは病膏肓に入るというのか。
こんなパターンもあるんだねえ。
世はインターネット時代である。
情報は、あっという間に誰でも手に入る。時代小説などは、書きにくい時代になったと言えるだろう。
すぐに「史実と違う」とかいう批判が山のように入るだろうからである。
そこを、著者は「史実ではないが、いかにもありそう」な話を書いた。
これはすごい。つまり、時代小説マニアで知識豊富であればそれだけ面白い、という作品になったからである。
フィクションなのだが、豊富な知識に裏付けられた「ありそうな」フィクションなのだ。
インターネット時代の小説とは、こういうものなのかもしれないなあ。
逆に言えば、付け焼き刃で、本人が知らない分野を短期間に猛勉強して書くような職業ライター的スタイルは、通用しにくくなっているのかもしれない。
ホンモノ感がないから、読者を惹きつけることは難しいだろうと思うのである。
そういう目で最近の小説家を見てみると、医者が医学ミステリを書いたり、教師が学園モノを書いたりするケースが増えているなあ。
刑事が刑事物、というのはまだないようだが、そのうち出るかもしれない。
自衛官が戦争もの、というは浅田次郎かな。ちょっと違うか。
なんにせよ、面白い小説が出るのは読者として楽しいことだ。時代小説ファンとして、著者の健筆を期待する。