Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ブラックスワン理論

ブラックスワン理論というのがある。ナシーム・ニコラス・タレブが2006年に提唱したものである。
数学的な説明は、私の力量ではムリなのであきらめるが(苦笑)つまり人間は「想定外」を避けられない、ということである。
その後、数学的にはきちんと計算されたリスクを反映したはずのサブプライムローンが危機に陥り、世界は「黒い白鳥」の襲来に驚いた。
過去のデータは、なんの役にも立たなかったのである。

今回の原発事故についても、私はブラックスワンだと思っている。海外も、おそらく同じ評価をしている。
ブラックスワン理論が教えるものは、未体験の危機が起こったときに、それは常に「後では、いくらでも定量化可能」であるという点なのだ。

東電は、なんども「想定外」と言った。
「いや、地震学者何某が危機を予告した」「IAEAが警告を出していた」という話もある。
ただ、問題は、言うだけならば誰にでもできるということである。
原子炉そのものは、有限要素法で計算されたリスクに基づいて、天文学的に小さな確率の事故しか起こらないように設計されている。「絶対安全」である。
しかし、今回事故が起きた。
この事故を教訓にして、「より定量的に、リスクを把握する」ことは可能である。なぜならば、それは過去だからだ。(東電が、ちゃんと事故原因を隠蔽しないで、すべて公開すれば)リスクは有限要素法に従って、新たに組み込み、計算できる。
しかし、だからといって、再び「ブラックスワン」の飛来を防ぐことができるか?
実は、できないのである。人間の持っている思考(数学)の限界を突破できないのだ。

我々に必要なものは、ブラックスワンが来るという予想は、予想ではなくて、いつか確実だということだけである。
「最悪の想定」は、だから必要なのである。

20日日経新聞では、東電幹部の話として「発・送電分離が行われたら、東電はコストで勝てない」と述べたことが掲載された。これは、驚くべき記事であった。
原子力発電は、結局「スチーム」であるから、直接発電効率が30%台にすぎず、しかも総熱量の5/6が捨てられる。スチームである以上、やむを得ない。
一方、現在の火力ではジェットエンジン利用のコンバインドサイクルなどが採用されており、直接効率60%を超える。コージェネの一種で、廃熱も少ない。
もしも発送電分離をすれば、原子力発電のコストは、火力よりも既に高いという。各種政策で、下駄を履かされている部分と、事故対策コストが上昇することを見込まなければいけないので、最新火力を主力に立ち上がってくる新興発電会社に原発を抱える東電は勝てないのである。
もはや「原発は安い電源」という神話は崩壊した。

さらに問題がある。
「ただちに健康に影響はない」が、果たして10年先にどうなっているかわからない。有り得る懸念事項として、国健康保険制度と労災の関係の問題がある。
ベクレルとシーベルト(それもマイクロとミリが混在)しており、さらにシーベルトシーベルト毎時は単位が違うので、そこに注意しながら。
放射線技師等の管理区域内では18歳以下は労働してはならないし、飲食などもってのほかというのは、プロの職業家であれば誰でも知っている。この放射線管理区域の線量が、3か月で1.3ミリシーベルトで、1年では4倍の5.2ミリシーベルトである。
そして、もしも放射線技師が、白血病になって労災を適用されるのが、この5ミリシーベルトである。
政府は、緊急時の線量として年間20ミリシーベルトを適用しているが、そうすると、なんと放射線技師の5ミリシーベルト以上に、一般国民の線量の限度が高いという結論になる。
同じ20ミリシーベルトの年間線量の地域に居た人がいて、同じように白血病になった人がいて、かたや放射線技師であれば労災で、一般国民だと健康保険だということになるのだが、有る程度の職業上のリスクがある労災の認定が健康保険よりも低いという状況になっている。
後付の規定変更だから、こんなことになってしまうのだが、これでもしも市民訴訟が起きたら政府は勝てないのではないか。

収束がいつまでかかるか(そもそも収束可能なのかどうかすら判然としないのだが)放射性物質は漏れる。
まずは、汚染地区をきちんと把握して、除染につとめるのが最低の政府の義務だと思うのだが、、、政権はいまだ「言った」「言わない」の泥仕合しかする気がないようだ。
あとのことを考えなければいけない時期だと思うのだがねえ。