Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

運命が見える女たち

「運命が見える女たち」井形慶子

著者は英国流シンプルライフを提案する雑誌「ミスターパートナー」を出版する出版社の社長であり、ライターでもある。
その著者が、旧知の編集者サワダ氏から「潜入取材」の依頼を受ける。
サワダ氏がいうには「これから、スピルチユアルものが絶対に流行る。あんたに書いてほしい。」
そしてさらに奇妙なことに「ここで、自分を賭ける仕事をしないと、自分は事故死する運命にあると予言者に言われた」というのだ。
おかしな話だといぶかりつつも、著者がこの依頼を受けるところから、このノンフィクションは始まる。

依頼の内容は好条件であった。
取材費は200万円を計上済である。その予算内で、指定された3人の女性占い師に連絡をとること。
著者は、偽名でこの3人に相談を持ちかける。
当然、3人の占い師は、それぞれに勝手なことを言うであろう。
その有様を取材して、このような占いの内幕をレポートしよう、というものであった。

著者は、指定された3人の占い師に電話をかける。
彼女らは、いわゆる「電話占い」で、しかも「霊感占い」であることに特色がある。
うちの1名はタロット占いであるが、タロットは霊感を引き出すための道具に過ぎない。

さて、偽名で電話占いに取材を開始したとたん、依頼者のサワダ氏が突然失踪してしまう。
彼は、何か悩みがあって、国外に脱出してしまったらしい。
著者は、3人の占い師にこの件を相談することから、取材を開始する。
「もう死んでいるのでは?」という問いに、占い師は一様に答えるのだ。
「死んでいません。もうすぐ、彼からの連絡があるはずです」
この予言が的中したあたりから、著者は、自分が経営する会社の問題、人事の問題を彼女らに相談しはじめる。
奇妙なことに、3人が言うことは、ほぼ一致して、しかも常に的中していくのだ。
「その人は、ちかじか辞めます。しかし、辞めた後も、あなたと一緒に仕事をすることになる」
「次の人は、あなたの力になりません」
そのうち、著者は、潜入取材を忘れていくのである。
彼女らは、つねに正確に未来を予言する。しかも具体的に。
「その人とは、来年に一緒に仕事をする姿が見えません」「ちかじか、病気で入院します」
彼女らは、詳しく説明をしなくても、これらの予言を口にする。

いつしか、著者は、200万円の電話相談料金を使い切っても、自費で相談を続けようと考えるに至る。
彼女らは、決して間違わないから。

しかし、著者がもっとも一緒に仕事をしたいと念じている編集者との仕事について、3人の占い師は、一様に否定的な反応をする。
「次に会う時が、彼と一緒に過ごす最後の時間になります」
この予言も的中する。彼は、海外へ転勤することになった。

著者は思う。
「今、この人と仕事ができて、とても幸福だ。そうだ、来年もそうだと言ってもらおう」
そう思って、占い師に電話する。すると、占い師は言う。
「しかし、来年はこの人との仕事はありません」
著者は感情的になる。
「どうしてそんなことを言うのか?」と。
占い師は答える。
「そうです、と言って欲しいのですか。しかし、見えないものは見えないのです。そうだと言って欲しいなら、他の人に電話してください。私は、見えたイメージを伝えるだけ」
著者は言う。
「運命がそんな風に決まっているものなら、生きる意味なんてないじゃない」
占い師は答える。
「たとえ無理だと分かっても、そこで苦しんでください。それもあなたの運命です」
そう、著者は占い依存症になってしまったのである。
著者がテーマにしようと考えていた「占いに依存する人々」に、気が付いたら自分がなっていた。。。
まさに、その部分が、この本の「ノンフィクション」たるゆえんである。
昔から言う「ミイラ取りがミイラになる」その過程が、まさにドキュメンタリーなのだ。
それゆえ、面白さは無類だと思う。

評価は☆☆。
一読して損がない内容と、きちんと書かれた丁寧な文章は素晴らしい。

さて、いわゆる心理学的な手法を使って、このような予言を的中したと信じ込ませることは可能か?
あるいは、そのように相手を操作してしまう(よって、的中したように見える)ことは可能か?
これらの回答は、すでに出ている。可能なのである。
ただし、一言いっておくと、これらの手法を、本書に出てくる3人の占い師が駆使したらしい形跡はない。

孔子いわく「怪力乱神を語らず」と。
「語らず」というのは、存在する、しないという話をしないということである。
私も、その故智に倣うことにしよう。