「日本型モノづくりの敗北」湯之上隆。
年末年始は帰省などして、ようやく昨日から始動。
休み中に読書などしたが、この本は面白かった。
かつて80年代から90年代、日本の家電も半導体も自動車も、世界を席巻したものである。
で、現在はその面影もない。
なぜそうなったか?
陰謀論好きのかたならば「米国の陰謀」だとかユダ金(ロスチャイルド)どうとかいう話になるんでしょうが、いったいどこかそんな機密を聞いてくるのかなあ(苦笑)
さて、理由はカンタンで「作ったモノが売れなくなったから」である。
なぜ売れないのか?そりゃ高いからである。
そうすると、それは為替の陰謀だ、ユダヤ金融資本だ、という話になるのである(爆)。
しかし、本書は、もっと冷厳な事実を教えてくれる。
つまり、日本には「技術力がない」から、なのだ。そして、マーケティングもない。
たとえば。
日本のDRAMはかつて世界一だった。そのとき、何を目標にしていたか?
それは「25年壊れないメモリをつくる」ことだった。そのときのハードはオフコンだった。
ところが、世の中にパソコンが出回ると、25年壊れないよりも、安く大量に作る必要が出てきた。
日本企業には、「安く作る」技術はなかったので凋落。簡単な話である。
同じことは液晶パネルにもいえる。
家電はどうか?
インドでの話である。
インドに多いのは、停電と泥棒である。
韓国製の冷蔵庫は、日本製の半額で、ドアに鍵とバッテリーを内蔵している。
鍵は泥棒が入ってきても食品を盗まれないようにするためだし、バッテリーは停電時に役立つ。
日本の製品は韓国製の倍の値段するが、鍵はないしバッテリーもない。これで売れるだろうか?
そして、鍵とバッテリーをつけるのに、いかほどの技術が必要だろう?
で、インドの現地の日本人社員に話を聞くと(もちろんインド人社員たちの上司である)、
「おれはこんなところまで飛ばされてしまった。いつ日本に戻れるだろうか」
という話ばかりしている。オチコボレである。
何をつくれば売れるかを考える前に人事の心配をしているし、オチコボレなので本社に製品提案をしても無視されるし、だいたい日本企業においては開発部門が偉くマーケティング部門は営業の出来損ないが行かされる場所と相場が決まっている。優秀なヤツは営業配属なのだ。
韓国企業では、何を作れば売れるかを見つけ出すマーケティング部門は、営業部よりも遙かに高い給料をとる。エースである。
エースが現地に出向く韓国と、オチコボレが現地に「飛ばされる」日本企業。
これで世界と戦える製品が出せると思うのなら、そりゃ世の中をナメているのである。
まあ、こんな調子で「なぜ日本の製造業が没落したか」を明快に説明している。
大いに頷ける話ばかりだ。
はっきり言って、アホな陰謀論をユーチューブで垂れ流される動画を見て信じているヒマがあったら、本書を熟読すべきだ。
情報のソースもハッキリしている。
評価は☆☆☆。
製造業のみでなく、日本人ビジネスマンならば必読の書ではないかと思う。
本書の巻末ちかく「では、どんな技術が日本は優れているのか?」に対して「液体を扱う技術は日本は優秀である」と述べている。
デジタル製品はモジュール化できるが、液体を扱う製品は高度なすりあわせが必要なので、モジュール化が難しいのだ。
昨年来、話題になった貿易管理の厳格化対象となったフッ化水素などは、その好例である。
もっとも扱いが難しい液体であって、日本の技術力でアドバンテージがある分野なのである。
まさに本書の予言がズバリと的中したといえるのではないかと思う。
フッ化水素で韓国があわてふためき、「やっぱり日本の技術が進んでいる」と自画自賛してホルホルしちゃった日本人は、液体管理技術が、日本に残された数少ないアドバンテージだということを知っておいた方が良いと思う。
つまり、それぐらいしか、製造業におけるカードはなかったのだから。。。