Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

日本防衛秘録

「日本防衛秘録」守屋武昌

かつて「防衛省天皇」とまで呼ばれ事務次官を務めた著者が、防衛省の足取りについて記した本である。
著者は防衛商社から収賄したかどで実刑判決を受け、出所後に初めて出したのが本書らしい。
あの311地震を刑務所内で体験したらしく、その記述はリアリティがある。いかに丈夫であっても、閉鎖された施設内で大地震に遭う気持ちが如何に不安か、想像に難くない。

本書だが、日本の防衛省の背広組が何を考えてきたか?という証言のようなものである。
警察予備隊として発足した陸自と、米空軍の子会社(たとえが悪いが)として作られた空自、日本海軍の組織を色濃く受け継いだ海自(海保も)がなぜそうなったのか?などは、本書によれば明白である。
思えば自衛隊朝鮮戦争によって米軍兵力を日本に置く余裕がなくなったことが発端であり、日本の独立も東西冷戦のおかげである。
ついでにいえば、その後の経済発展も、冷戦によって共産圏の労働力と隔離された世界のおかげで、相対的に安い豊富な労働力をもった日本の生産力が優位になった結果であろう。
その証拠に、ベルリンの壁が崩壊して以後、日本経済はかつての繁栄を取り戻すことはない。(それでも頑張っているほうである)
日本の没落を「米国の陰謀だ」とすぐに思いこむ向きは、80年代から現在までの世界史年表をひもといてよく考えたほうが良い。

本書の記述は細部に及ぶが、読んでいくと、つまりは防衛省背広組は「憲法9条と野党対策」がその業務の大半である、ということである。
何しろ、憲法9条には「戦力を保持しない」と書いてある。
つまり、自衛隊は「戦力」であってはいけない。
そこで「必要最小限の武力は、戦力ではない」という解釈(ううむ。。。)で、なんとか辻褄を合わせてきているわけである。
新たな装備もそうだし、基地だって補給品だって、野党から「これは戦力ではないか」とつっこまれた時に「そうではありません」という理屈を用意しておかなければならない。
それができないと、国会審議がそこでストップするのである。
そうすると、他の省庁から「また防衛省かよ」という文句が入る。
これに心身をすり減らしているのが、防衛省背広組の真実の姿である、と思わざるを得ないのだ。

一方の制服組は、いざ有事になれば当然に正面で戦わなければならないし、そのために普段から厳しい訓練に耐えなければならない。
どうしても、背広組とは考え方が違うところが出てくる。
著者も、両者の融和には相当に気を遣ったようである。統合幕僚会議が定期的に開かれるようになったなど、その表れである。

最終章の「オキナワをめぐる真実」は興味深い。
なぜ普天間返還が進まないのか。色々な理由があるのだが、つまりは基地の地主たちの意向が大きく影響もする、ということなのである。
広大な基地のなかには、傾斜地や山林もたくさんある。
米軍に貸しているかぎりは、結構な借地料が貰えるのであり、その額は順次値上げされて沖縄返還時の4倍にもなっている。
これらの借地を返して貰っても、活用の難しい地なので、他の借り手はなかなか付かない。
そこで、再開発等が行われるまでの補填という名目で補助金が支払われる。
この金額もすごくなってきているのだが、与野党問わず、そこでゴネればこの補填金額が上がるという構図がある。
その奥には、本土に対する沖縄の不信感がある。
いまだに集団自決の真実について論争になったりするが、あれはなぜか?
実は、軍人恩給が集団自決があったときと、なかったときで違うのである。
沖縄戦では、民間人も戦場に駆り出されたのであるが、その人たちが亡くなったときは、軍人恩給を支払うべきか、そうではないのか?
それを「集団自決があったときは軍人恩給に準じて」というワケの分からない制度にした。
怒った沖縄人は、猫も杓子も「集団自決があった」と言い出してしまう。
本土は沖縄を捨て石にしたんだから、沖縄を丸ごと救うべきであったと著者は言う。
同感である。

評価は☆。
防衛問題を理解するための基礎的な書といえる。

最近、北の将軍様が何かと騒いでいる。
チキンレースなのだが、なにしろ、北には失うものが何もない。
トランプ大統領も狂人戦略をとっているのだが、相手がカリアゲでは通用しないようである。
このまま、なし崩し的に北が核保有国になる可能性も出てきた。
さて、そうなれば、韓国に核保有の議論が巻き起こるであろう。北がもっているのに、韓国は大丈夫なのか?
かつてのインドとパキスタンのパターンが繰り返されて、韓国も核保有するのではないか。
となれば、6カ国協議の参加国で、唯一核武装していないのは日本だけということになる。たぶん、日本の発言力はダダ下がりとなる。
おそらく、日本も核武装をせざるを得なくなるだろう。

現状では、日本は核拡散防止条約の加盟国であり、韓国もそうである。
ゆえに、核武装は出来ないし、もしNPTを脱退すれば世界から経済制裁を食らうことになる。
そうなれば、日本の経済は終戦直後に逆戻りせざるを得ないから、食うにも事欠くことになる。
しかし、北の核武装は「やったもん勝ち」を世界に認めさせるという意味で、NPT体制の崩壊につながる可能性がある。
おそらく、現在「世界一安く核兵器を売ってくれる」国である北には、イランやイラク、シリア、あるいはボツワナソマリアといったアフリカ諸国まで門前市をなすであろう。
北の将軍様は大儲けである。
そのときは、我が国もひとつ買うことになるのかもしれない。

かくして、世界の国家に核が行き渡り、恐怖の均衡によって世界の平和が訪れる。
ま、それより先に、どっかが暴発してぶっ放すほうが先でしょうが。。。

ただ一つ言えることは、登場したテクノロジーを人為的に衰退させることはできないということである。
アメリカが70年前に出来たことを、他の国がいつまでも出来ないと思う方が可笑しい。
核兵器をなくす方法はただ一つ。
核よりも、遙かに破壊力に勝る新技術が登場すればよいのである。
そうすれば、核兵器は「燃えないゴミ」扱いになるはずである。
やっぱり反物質弾じゃないかねえ。