「東アジア動乱」武貞秀士。
「地政学」という学問は、日本の大学では存在しない。平和主義に反する学問であるとして戦後に抹殺されたからである。
ナチスドイツが地政学を錦の御旗にして四方に喧嘩を売るという大馬鹿をやったので、剣呑な学問と思われてしまったのである。
しかしながら、地政学というのはゲームの初期配置と同じで、地理的条件によってその国が取れる戦略がある程度決まってくるということで、特別なことではない。
そんなに「禁じられた学問」にする必要もないように思う。
本書はそんな地政学に則って、東アジアの各国が取ろうとしている戦略を平易に解説した本である。
まず、日本の位置の説明からであるが、地図を逆さまにして見てみると、日本列島は北京から太平洋にでるまでの蓋にみえる。中共あるいはロシアにとって、この日本の位置は決定的である。
本書では、国家を「ランドパワー」「シーパワー」「イスラム勢力」に分けている。
日本の位置からして、中共やロシアは海洋国家=シーパワーであることはできず、ランドパワーを志向することになる。
ただし、中共は経済的に発展を遂げ、国力に余裕が出てきたので、余剰分をシーパワーの確保に向けている。
中共にとって、もっとも重要な海はインド洋であり、インドとの関係が問題になる。
北朝鮮は海を活用できる位置にないので、ランドパワー国家になる。同じランドパワーに属する中共、ロシアと仲がよく、この陸路を通じての発展を目指すのが基本。
一方の韓国は、陸路がない。ゆえに、シーパワー国家となる、、、はずなのだが、仮に北朝鮮と統一すると、陸路で中共、ロシアとつながることになる。
どうも、韓国はこっちの志向があるようで、中共へ接近することと北と統一することがセットにならざるを得ない。
シーパワー、ランドパワーの何れにも属さないのがイスラム勢力で、これは中国の内陸地方で接している。
中共がウィグルやチベットに対して弾圧しつづけていえるのは有名な話だが(そして、日本の人権団体は、なぜかこれをスルーするのだが)それは、イスラム勢力だけはいうことを聞かない、という認識があるからである。
あの911の時も、普段は仲が悪いはずの米国をさっさと支持したのは、そういうことだ。
東アジアにとって、もっとも大切なのは台湾であって、台湾自体は島国でシーパワーに属する。
しかし、たとえば中共がここを取れば、太平洋に出られる出口を得ることになる。
沖縄も同じであって、仮に日本がどうでようとも、中共が沖縄を(尖閣はもちろん)諦めることはないだろう。。。
一つ一つの指摘は明快である。
評価は☆。
ちょっと疑問だったのが、日本に関する今後の提言である。
日本は、シーパワーに属するが、戦前に大陸でランドパワー開発を行った経験がある。これは東アジアで唯一である。
ゆえに、その経験を活かして、東アジアで独特の地位を確立するべきだというのである。
私は、この意見に反対である。
基本的に「大陸とかかわると、ろくなことはない」というのが、日本の歴史的な教訓ではないかと思っているからだ。
戦前は言うに及ばず、白村江の戦い以降、ほぼすべてではないか。
もちろん、半島も含むのだが、とにかく損をするとしか思えない。
同じシーパワーに属する英米、台湾、インドあたりとガッチリ手を組んで、ランドパワー連中を封じ込めるのが得策であろうと考える次第。
なにしろ、我が国の隣国は、煩いことでは世界一なのだ。
敬して遠ざけるにしくはない、と思うのですねえ。