「未必のマクベス」早瀬耕。
舞台は現代の香港。もちろん返還後である。
主人公の中井は、偶然にも同じ会社に高校時代の同級生、伴が在籍していたことを知る。中井は営業職、伴は技術職なので、接点がなかったのである。
二人は意気投合し、東南アジアにICカードの営業にでかけ、商談をまとめる。
すると、トランジットの香港で上司から連絡が入り、褒賞がわりにそのまま香港でゆっくり週末を過ごせば良いと言われれる。
そのあと、中井の職場恋愛中の女性から連絡がはいり、中井も伴も香港の現地子会社に出向になると伝える。どうやら、上層部の意向らしい。中井が現地小会社の社長、伴が副社長である。
二人は、そのまま香港からマカオに遊びにいくが、博才のないはずの中井は大勝する。
すると、マカオの娼婦に「あなたは王となって旅をしなければならない」と告げられる。
中井は、その後、香港に亡命中の有名なあの国の王子に「自分が持っている株を買ってほしい」ともちかけられる。
その会社は、なんと中井が社長に就任する現地子会社の唯一の大口取引先だった。
取引内容は、ICカードに使用される暗号化ソフトの特許使用料で、どうやらこの取引は本社の上層部の裏金づくりに利用されているらしい。
さらに、過去の現地子会社に出向した社員の経歴を調べると、なんと全員が事故や自殺であった。生きて帰れぬ辞令であったのだ。
株をかった相手の会社に出向いた中井は、やはり高校時代の初恋の相手、鍋島のメッセージを見つける。
鍋島は、数学の才能に恵まれていた。彼女は、その才能を生かして、暗号化ソフトの開発を行っていたらしいが、数年前に行方不明になっている。
中井は、鍋島を見つけるために「旅」に出ることになる。。。
これは、ミステリのふりをした初恋小説である。
よく「男の恋愛は別名保存、女の恋愛は上書き保存」と言われるが、まさに別名保存の典型で、そのまま初恋をこじらせちゃった(笑)小説なのだ。
気持ちはわからんではないが、それがもとでここまでやるかね?という部分があって、あんまり共感はしづらいかもしれない。
なんとなく「大人向けラノベ」みたいな雰囲気もある。そう思って読めば、結構面白い。
評価は☆。
この著者だが、なんと本書の前のデビュー作が22年前だという。
つまり、デビュー作を出して、そのまま次作を出さず(出せず?)22年後に、ハヤカワから本作を出版したわけである。
実は、こういうパターンは意外に多くて、苦心惨憺ようやくデビューしたら後が出ず、一作品で消える作家は少なくないのである。
実力が足りないといえばそうなのだが、デビュー作で精根尽き果ててしまうのだな。ネタも出し尽くして、すっからかんになってしまい、次が書けない。
それでも、デビューに至らない作家志望者のほうが世の中には多いのだから、一作品を上梓できただけでもすごいのだ。
まして、「すっからかん」から次作を出し続けるプロの恐ろしさよ。
身の毛もよだつ世界である。
やりたいことができる仕事は幸福であるが、やりたいことだから出来るとは限らない。
で、大概の人間は、出来ることを仕事にする。私もそうである。
それが幸福かどうか、それはわからないなあ。ただ、ほかにしようがなかった。
人生には、そういうことが結構多いような気がするな。