Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

Gene Mapper

「Gene mapper -full build-」藤井太洋。カタカナで表記すると「ジーンマッパー フルビルド」。


主人公の林田はジーンマッパーと呼ばれる遺伝子組み換え作物のデザイナーである。業界最大手のL&B社から仕事を受注している。
かつての遺伝子組換え作物は、天然の植物の一部の遺伝子を組み換えしていたのだが、大きな疫病が流行してイネ科の作物が全滅の危機に瀕したため、すべての遺伝子を組み替えた「蒸留作物」というものがつくられた。
農薬や耐病性、収穫量などをすべて人間のデザインしたとおりにコントロールできる。
その蒸留作物の農場で、異変が起きているという連絡を受けた林田は、シンガポールに飛んで異変の遺伝子を解析するとともに、農場に飛んで現地でも確認する。
その異変は、見たこともないバッタの食害によって引き起こされていた。
蒸留作物は昆虫の食害を受けないはずなのだが、そのバッタは、実は作物を食っているわけではなく、ナノマシンを内蔵しており作物に病気を発生させることを明確に目的にしていた。
つまり、これはテロだったのである。誰かが開発した生物兵器だというわけだ。
林田は現地のキタムラという腕利きのハッカーや遺伝子解析の金田、作物の栽培担当のテップらとともに、バイオテロに対抗する策を練る。
バッタの遺伝子を解析したところ、そこにはとんでもないものが現れて。。。


この著者のデビュー作「Gene mappaer」を大幅に加筆修正した作品なので「full build」が付いている。実質的なデビュー作である。
この世界の描写が、たとえば会議するときには仮想現実空間をつくってそこに皆がログインするなど、いかにも「ありそう」だし、主人公の職業のジーンマッパーもxmlで記述されたゲノムのスタイルシートCSS)を編集するというもので、今のウェブページ開発の技法をそのまま連想させるようなものになっている。
ちょいとプログラミングの世界に詳しい人だと、なんだか、すぐにもできそうな錯覚を起こさせる。
ストーリーのプロット自体よりも、この「いかにもありそう」な感じが、SFファンの心をくすぐってヒットしたのだろう。
評価は☆。

この著者のデビューの経緯が変わっていて、本作はもともとamazon kindleで自主出版された作品なのである。
amazon kindleでは自主出版が簡単にできるようで、その中で2012年の小説カテゴリでぶっちぎりの1位となった。
ついに本物の出版社から声がかかって、紙の本として出版、、、、というのが本書が上梓された経緯である。
電子出版の、それも自主出版からプロ作家という珍しいケースであるけど、その後、ネット上では小説投稿サイトが流行することにもつながった。
今でいう「なろう系」の元祖「小説家になろう」サイト経由でヒットした作品が(いわゆるラノベですね)本物の出版社から続々と上梓される流れにもつながる。
一方で、そちらに新人作家が流れ込むため、老舗出版社の新人賞が軒並み不作という、、、まあ、リアルの出版界と同じく、電子と紙の世界で才能の奪い合いが起きているのが現状である。
そういう意味では、電子投稿からの作家デビューという流れをつくった記念碑的な作品といえる。

この藤井太洋氏は、小説を書くためのツールとして、microsoft統合開発環境 visual studio codeの拡張機能novelを開発して公開している。
私も試しにインストールしてみたが、これはよく出来ている。縦書きのプレビューはとても便利だ。
テキスト量が「400字詰め原稿用紙」に自動換算される機能があればもっと良いと思うが、そのうち実装されるのか、ほかに拡張機能があるのかもしれない。
とはいえ、執筆環境だけ作ってみても、小説が書けるかどうかは、また別の話なのだけど。
当たり前ですね(苦笑)