Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

マイロ・スレイドにうってつけの秘密

「マイロ・スレイドにうってつけの秘密」マシュー・ディックス。

このGWは見事に「ステイホーム」したsingle40である。近所のスーパーに2回ほど買い出しにいっただけ。
我ながら驚くことに、さような引き篭もりで、好きな音楽を聞きながら読書をし、ビデオを見て(シン・ゴジラ何度見てもいいな)、愛猫をなでてやって、どうということもないのだった。
きっと私には自宅警備員の才能があるんだろうな。
もっとも、拙宅では自宅警備員を募集はしていない。single生活で自宅警備員を雇うと野垂れ死にしてしまう。
私はそれで良いかもしれないが、我が愛猫はどうなるのだ?
たとえ、どんなに頼りなくても、飼い主たる責任は果たさねばならん。
というわけで、本日から通常業務に復帰するのであった。

さて、GW中の読書した本である。
この本は面白かった。
主人公のマイロ・スレイドは33歳で、老人への訪問介護をやっている。妻とは結婚3年めになるが、あまりうまくいっていない。
実は、彼には強迫神経障害があるのだ。なにか思いつくと、それをやらない限り、ひどい脅迫観念にかられ、汗を流し、手が震える。
たとえば、密閉されたジャムの瓶を開けて、小さなポンという音を聞くこと。
乗っている自動車のタイヤの空気を抜くこと。
映画「明日に向かって撃て」を、今度こそラストが変わるのではないか、と思いながら見ること。
しかし、このような奇癖を、妻には隠していた。しかし妻は感づいていて、それが結婚生活の障害になっているようだった。
さらに、マイロは妻の「しばらく距離をおきたい」という言葉に従ってある日、家を出てアパートを借りるが、それも妻に「そういう意味じゃない」となじられてしまう。
マイロには、妻の気持ちが理解できない。
そのマイロが、ある日、公園でビデオカメラとテープを発見する。
そのテープを見たところ、それはビデオ日記だった。
ちょうどマイロと同じくらいの女性が、ビデオに向かって告白したのは、小学校高学年時代の苦い思い出だった。
親友の家出計画を立案するのに、一緒に力を貸したのだ。
その親友は、家出の常習犯だった。一日か2日、だいたい近所の公園やら橋の下に居て、戻ってくる。
今度は、遠い親戚の家に行くというのだった。
彼女は地図を見ながら、いっしょにルートを考え、バス代も貸した。そして、親友はある日、学校に来ないで出発した。
やがて警察がやってきて、親友のことを知らないか、と聞く。
彼女は、親友との約束を守り、知らないと応え続けた。
そして、親友はそれきり、行方不明なのだ。
彼女は、涙ながらに、自分が間違っていた、親友は私のせいで死んだと告白していた。
彼女の秘密の告白を聞いたマイロは、自分も妻に秘密を隠していることで共感し、彼女を救うために、行方不明になった親友を探そうと決心する。
親友が生きているとわかれば、彼女の苦しさは解消されるだろう。
そうしてマイロはこの人を探して旅に出ることになる。。。


主人公のマイロは、強迫神経障害があるわけだが、実は彼が介護している老人たちも、皆へんな癖ないし習慣をもっている。
ただ、老人たちはそれを隠そうとしない。もう隠す必要もないのだ。
マイロは、自分の強迫神経障害が奇妙だという自覚をしており、それゆえ「ふつうに」振る舞おうとして、大変な苦労をしている。
しかし、考えてみれば、私自身も、やっぱり同じように「普通のふり」をするのに、苦労する場合が多々あるのだ。
あんなことや、こんなことをするのが好きなのを、周囲に隠すのは骨がおれるわけだ。
人に言えない過去の履歴だって、ある。
そういうことを隠しながら生きることの辛さを、マイロはよく知っている。
この男に最初は「奇妙なやつ」だと思っていたのが、ラストでは「良い奴」だと、心から思うようになる。
マイロが少しでも素直に、彼の奇癖を、ただ受け止めるだけの人々に囲まれて幸福になって欲しいと願うようになるのだ。

評価は☆☆。
素晴らしい小説。

私達は、誰でも、秘密の1つや2つをもっているんじゃないかな。
長い人生で、どうしても秘密になることは、あるだろうと思う。本人にとっては重大でも、他人にとってはそうでもない場合もある。
そうでもない人たちと出会うか、どこか合わない(秘密の共有をできない)人たちと会うか、それが人生の幸福を決めるように思う。
だけど、その人がどっちの人なのか。私達にはわからないことが多い。
分からないから不安になって、余計に秘密を隠さなければいけなくなるのである。
だから、この世は、やっぱり苦労が絶えないのだなあ。