Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

犯罪

「犯罪」フェルデナント・フォン・シーラッハ。

 

タイトルどおり、様々な犯罪に関する短編集。
素晴らしい出来栄えである。2012年「このミス」の海外部門第2位だそうだが、さもありなん。
ちなみに、この年の1位は「二流小説家」D・ゴードンだが、私であればこちらの「犯罪」のほうを1位に推す。それぐらい、完成度が高いのである。

著者は実際に刑事弁護士として長年活躍した人のようで(現役のようだ)それらの経験が生かされたのだろうな、と思う。
いずれの短編も、深い余韻と鮮やかな切り口を見せる。
犯罪といえば、人は簡単に正義だとか悪だとか論じるだろう。
しかし、世の中は、もう少し複雑にできている。正義か悪か、法に違反しているかどうかは、物音の一面なのである。

 

以下の短編が収められている。
「フェーナー氏」
「タナタ氏の茶碗」
「チェロ」
ハリネズミ
「幸運」
サマータイム
「正当防衛」
「緑」
「棘」
「愛情」
エチオピアの男」

で、いずれもハズレがない。駄作が一作もないのだ。おそるべきことである。

最初の「フェーナ-氏」は、長年、医師として地域医療に貢献しつづけてきたフェーナー氏が妻を撲殺する話である。
フェーナー氏は、極めて真面目で温厚な性格で、妻と新婚旅行に出かけた時「一生私を愛すると誓って」とねだられ、誓い立てる。
しばらくして、妻は豹変。優しかった性格は影を潜め、ガミガミとフェーナー氏を怒る。フェーナー氏のテーブルマナー一つ一つに文句をいい、大切にしていたレコードを勝手に捨てる。
フェーナー氏は医院に夜遅くまで残り、医療に打ち込むことで妻から逃れる。
やがて引退。フェーナー氏は医院を人に譲り、庭にささやかな果樹園を作って余生を楽しむことにする。
しかし、その楽しみも、妻にやはり壊されてしまう。
フェーナー氏は妻を撲殺し、逍遥として刑務所に行くのである。

生真面目で誠実なフェーナー氏は、それゆえに限界に達したわけだ。
もしも、誓いなんぞへの河童、釣った魚に餌はやらん!と豪語する御仁なれば、かような悲劇は起こるまい。

すこし考えさせる短編の切れ味の鋭さは、これは読まなければわからない。
評価は☆☆☆。文句なし。

 

短篇集というのは、時間の空いた時にちょこちょこと暇つぶしに読むようなイメージがある。
しかし、よく出来た短篇集は違う。
一冊読み終えて、ズシンと胸にくるものがある。
こんな本を読めて、やっぱり人生捨てたもんじゃないな、と思うのである。
コロナに注意しながら、とにかく健康に生きて、なるべく長く本を楽しみたいと(笑)ついつい考えてしまうのですなあ。