Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

四畳半神話体系

四畳半神話大系森見登美彦

 

この人の本は、以前にデビュー作の「太陽の塔」を読んで、結構面白かった記憶がある。世間的には高学歴だが、実はイケてない京大生の、バラ色のキャンパスライフとは正反対の鬱屈と自虐が面白かったのだ。もちろん、話はそれだけではないのだけど。

本書は2作めである。

 

主人公はやはりいつもの冴えない京大生である。九龍城のような古いアパートの四畳半に住んでいる。悪友に小津というのがいて、こいつが曲者である。この小津が、次々と厄介を持ち込むのだ。

第1話で主人公は映画サークルに入るのだが、皆に打ち解けることができず(軽やかな社交などというものは主人公にはないのだ)プチ権力をふりかざすサークルのリーダーを襲撃する。襲撃と言っても打ち上げ花火を鴨川ヘリの飲み会に打ち込んで騒ぐだけだが。一緒にサークルを抜けた小津の手配である。

その小津は、主人公の下宿の2階に住んでいる正体不明の留年男を「師匠」と呼んで立てている。主人公は、襲撃をきっかけに明石さんという黒髪の知的美女となぜか打ち解けて、良い仲になってしまう。

で、これが映画サークルに入った場合の話。

実は、入学時に主人公は4つのサークルに勧誘されて、そのうちのどれかに入ってしまうのだが(映画サークル、弟子求む師匠、ソフトボールサークルで正体は宗教団体、秘密結社?)そのたびに「選択を間違えた、あのとき他のサークルに入っていれば、きっと明るいキャンパスライフが送れたであろうに」と思っている。どれに入っても、実はほぼ同じ未来が待っている、というSF的多重世界の話である。

そして、最後の秘密結社に入ったときに、主人公はついに下宿の四畳半の世界から抜け出せなくなる。ドアを開けるとそこも四畳半、窓を開けるとそこも四畳半、しまいには壁をぶち抜いてみたが、そこも四畳半、、、無限につづく四畳半世界から脱出できなくなってしまい、四畳半で遭難するのだ。

四畳半をさまよいながら、最後にもといた部屋にいつの間にか戻り、そしてようやく主人公は脱出するのだが。

 

まあ、SFといえばSFなのだが、ファンタジーに近い。四畳半ファンタジーといえば漫画家の松本零士を思い出すが、似たようなテイストがある。しかし、おいどんは地方出身の一旗揚げたい男の夢と現実を辛辣に描いたが、こっちの小説では「明るいキャンパスライフ」についていけない男の鬱屈を描いていると思う。

評価は☆☆。

なかなか、面白かった。

 

40年前、私も都内の某マンモス私大の学生だった。

地方出身で、さして裕福でない生まれの私の下宿は四畳半でなく六畳だった。

世はバブルに向かって明るいキャンパスライフが流行りだした頃で、田中康夫がテレビで女子大生と大きな顔をしてにやついていた。

そのテレビを、6畳一間の下宿で、先輩のお下がりの14型の小さいテレビで眺めているのだ。明るいキャンパスなんて、あるわけがない。毎日、生協の食堂で飯を食い、サークルに顔を出してゲームに興じ、あとは古本屋で小説を漁るだけの日々だった。日曜日になっても、神田の古書店に行く電車賃がないと、どこにもいけない。下宿で本を読むしか無いのだった。

しかし、今思いだすと、それが幸福であったような気がするのである。