Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

僧正殺人事件

「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン

 

本作は、ミステリの中でも古典中の古典といわれるほどの地位を占めているわけだが、実は今まで未読であった。こういう名作というのは「いつかは読もう」と思っていて、そのまま今日に至っているケースが多いわけである。自分の読書時間の残り時間を考えて、そろそろ読んでおかないと、、、というわけである。

 

物理学と数学の権威であるディラード教授の弓術場で、教授の姪の友人(というか、結婚相手の候補の一人)のコクレーン・ロビンが殺されているのが発見された。死体には、矢が刺さっていた。コクレーン・ロビンは「クック・ロビン」であって、マザーグースの一節をそのままなぞったような状況であった。

さらに、連続殺人事件が起こるわけだが、そのたびに新聞社に「僧正」と名乗る人物からのタイプされた手紙が送られて、マザーグースの一節が書かれている。そのマザーグースが、殺人事件の状況にぴたりと一致するのである。

この不可解な連続殺人事件の謎に、ヴァンスが挑む。被害者も、被疑者も、すべてディラード教授の近所に住む弟子や知人たちであって、全員のアリバイが不確実という状況であった。

しかし、事件は最終局面で、意外な人物の自殺で幕を引いたかに思えたのだが、、、さらに、最後の事件が起きてしまう。

ここに至って、ついに真犯人が明らかになったと思われたのだが、、、

最後の事件の被害者を救ったヴァンは、ディラード教授宅にすべての関係者を集めて、ついに犯人を名指しする。

 

本作は1929年の上梓ということであり、さすがに読んでいると古さを感じる部分がある。それでも、すでに当時にして指紋捜査がされていたり、犯人と思われる人物が分かってからも「陪審を納得させる証拠がないので」逮捕訴追は難しいという話が出たりするなど、さすがに先進国アメリカという感じがある。同じころなら、日本なら警察が怪しいやつを有無を言わせずしょっぴいて、拷問をするのが当たり前の時代であるからなあ(苦笑)まあ、今でも人質司法で、大きな違いはないわけですがね(苦笑)

 

本作は、作中でも指摘されるとおり、関係者全員のアリバイが揃っておらず、それゆえに客観的な証拠から「ゆえに、犯人は◯◯以外にありえない!」という緻密な論理が展開されるわけではない。なんなら「数学者や物理学者は、浮世離れした世界を扱っているから、殺人ぐらいは何とも感じないのだ」という、トンデモな説が大真面目に開陳されるという(笑)今なら、こんなのは偏見、もっと言えば差別ではないかと(苦笑)。

しかし、関係者のアリバイが不確かで、真相が不確かなままに次々と殺人事件が起きるという展開は、一種の恐怖感を出すのに成功していて、いわばスリラー小説の先駆け、と言えるのではないか。ミステリの中でも、本格推理だけではなく、サイコ・スリラーやハードボイルド、倒叙ものなど、いろいろな分野があるので、そういう本格推理以外の分野を切り開いたとも言えるのではないかな。

 

評価は☆☆。

古典に敬意を表して。

 

ラストに至って、探偵ヴァンのとった行動は、現在ならば決して許されないものである。犯人を間接的とはいえ(限りなく直接に近いのだが)死に至らせるのだから。

そういう点も含めて、古典の味を堪能するべきなんでしょう。