昨今のニュースでご存じの方も多いと思うが、麻酔薬のアナペインが不足しているという。この麻酔薬は長時間効くので、無痛分娩や歯科の手術に使われるタイプだという。
で、実は昨日、季節の変わり目で大きくなっている耳鳴りを抑えるために、いつものF医師のブロック注射を受けた。そのとき、F医師からこの麻酔薬不足についてお話を聞いたのだが、事態はニュースのそれよりも、よほど深刻なのだという。「このままでは、医療崩壊です」
実は、不足しているのはアナペインだけではない。ブロック注射に利用されるキシロカインも含めて「ほぼすべての麻酔薬」が不足している。各医療機関は、手持ちの在庫でしのいでいるのだが、おそらく、年内いっぱい持たせるのがせいぜいだろうという。それ以上の在庫を持つところは、ほぼないだろうと。
麻酔薬というのは、実は医療にとっては弾薬にも等しい存在で、これがないと戦争ができないくらいのものだ。なぜなら、風邪を筆頭に「自然治癒」できる病気は、最悪の場合、薬がなくても我慢して安静にしていれば治る。しかし、虫歯もそうだが、手術を要する病気というものは、自然治癒が見込めないものだ。麻酔がなくては、すべての手術が止まる。自然治癒できない病気もケガも、中世なみに「麻酔なしで」手術するしかないが、そんなことは事実上不可能だからだ。自然治癒できない病気やけがを放置するしかないとしたら、これは医療崩壊である。
なぜ、こんなことになったのか?厚労省の公式発表では「海外工場の移転のため」ということになっている。しかし、これは「責任逃れの情報統制」だという。実際はこうである。
麻酔薬は、今まで外資系大手のS薬品一手の1社独占であった。そのS薬品は、国内向け麻酔薬の製造を海外工場に委託していた。昨年、その委託契約の更改になったが、この更改契約に失敗したのである。コロナ特需からの回復特需で、医薬品需要はうなぎのぼりだ。ところが、日本の価格は厚労省の薬価で抑え込まれているうえに、急激な円安になってしまい旧価格は何もしなくても30%オフのありえないプライスになった。で、当然ながら、現在の「相場」の価格を、提示してきた。
そんな値段ではとても飲めないというので、S薬品は厚労省にも報告し対策を協議した、、、のだが、厚労省は「何もしない」。ときの武見大臣は「そんなの、いくらでも国内メーカーにつくらせりゃいいじゃん」といったとか、いわないとか。つまり、事態を甘く見た。
そのジェネリック麻酔薬だが、当然にジェネリックのメーカーにしたって注射薬を製造できる会社は限られているうえに、製造ラインをそれ用に持っているわけではない。つまり、製造するには生産ラインの「ライン替え」を行って、そのうえで効能と安全基準にあった薬を製造する。そのライン替えの手順だって、まだないのである。慌てて作ったが、案の定、試験生産品に不純物が入ってやりなおし。いまだに出荷できない。
当のS薬品は、厚労省の振り付け通り「海外工場委託生産を、契約終了により、国内に切り替える工場移転のため」出荷が止まっているとアナウンスしている。で、そのめどは?もちろん、いまだにめどは立ってない。いいですか?「次の工場のめども立たない」のに、契約を終了した、、、あり得ない話で、実は「契約更改に失敗した」から、なのだ。で、「契約更改に失敗して、1社独占の麻酔薬がなくなりました」じゃ厚労省の立場がまずいので「工場移転のため」という理由をアナウンスしているのである。
ちなみに、S薬品の「工場移転に伴う出荷停止のため、当面のめどが立たず」と医療機関に通知されたのが、今年の1月。で、今10月も下旬ですよね?今のステータスも「めどがたたず」。ジェネリックについては、厚労省が「年内に出荷できるとの報告」ということだが、認可もまだできなくて、おいおい、、、信じる者は馬鹿をみる、という話ではないか、と。
で、このままだと。
来年の年明けにも「虫歯の治療もできない」ということで問題になって、いよいよ世間が騒ぎ出すだろう、という予測が立つ。
山ほどOBをS薬品に天下りさせておいて、なんらの役にも立たず、一番肝心なときに無策を決め込んだ大臣と厚労省は、かなりの問題があったんじゃないかと思うのである。