Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

サバイバー

チャック・パラニューク著 ハヤカワ文庫。

主人公のブランソンは、カルト教団の生き残りである。
シーンは、突然、彼が燃料切れで墜落してゆく旅客機の中で、なぜハイジャックした飛行機の中で燃料切れをまっているのか、そこに至る過程をボイスレコーダの中に吹き込むという設定ではじまる。

カルト教団では、長男長女しか共同体の村に残さない。次男以下はすべて「奴隷」として「輸出」される。
そのことによって、長老達は豊かな生活を手に入れている。
ある日、密告者が現れて、FBIが踏み込む。危険を察知した教団の信者達は、集団自殺をしてしまう。
奴隷達は、事前に洗脳されたプログラムに従って、次々に自殺していく。
ブランソンは、ついに公式には「唯一の」生き残りとなり、彼を使って新興宗教をでっちあげてもうけようとする人たちに操られる生活になる。いつかは自殺すると思いながら、彼は唯々諾々とこれに従う。
大衆に飽きられ始めた頃、彼は「奇跡」を起こす必要にせまられ、本当の預言者ファーティリティが現れて、彼女の預言をそのまま発表することでカリスマになる。
しかし、彼には、他の信者を自殺に見せかけて大量殺人していた嫌疑がかけられていた。実は、犯人は彼の双子の兄アダム。アダムは、実はかつての教団密告者であった。
ウソの演出で作られた結婚式から、彼らは脱出するが、徐々に追いつめられていき、そして。。。

胸に迫る小説である。
主人公のブランソンは、実に広範な知識をもっている。しかし、それらはすべて「優秀な奴隷」として必要な知識でしかない。彼は逃げられない。本当の意味で、彼を逃がそうとしたのは、兄アダムだったが、その兄自身が結局、教団のプログラムから逃れられず、なかば自殺してしまう。
自由をもとめ、他人と交わろうとする対象がファーティリティだ。彼女は、しかし、彼の子供の身ごもった後、脱出する。あとは一本道しかない。
つらい小説である。
途中から、読むのがとまらなくなり、電車の中で不意に落涙しそうになって大変だった。
けっして、安物のお涙頂戴三文小説ではない。
自分の身であって、自分の自由にならず、追いつめられていく様は鬼気迫る。

自分がそうである。ビジネスで成功し、出世すれば、自由になると思っていた。全くバカだった。
現実には、時間も不自由だし株だって自由には売れない。逃れようのない一本道の人生を、まだ歩いていかなきゃならない。私だって奴隷である。私の知識は奴隷の知識かもしれない。自由主義社会だって奴隷的な生き方は、そこここに転がっている。
そのつらさを思えば、この小説のさびしさ、つらさを分かるだろう。

とにかくすごい小説だった。テーマが今日的とかいう安っぽい評論はいらない。
ただ、このまま、読めばいいだろう。
☆☆☆。
疲れたサラリーマンが人生を思う。最上の1冊である。