Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

12人の死にたい子どもたち

「12人の死にたい子どもたち」冲方丁

 

昨夜、帰京したら愛猫が大きな声でにゃあにゃあと大抗議。「どこ行ってたんだよ!」であろう。ごめん、ごめんと謝った。

その後は布団でくっついて寝た。いつもは一人で寝る猫なのだが。

おかげで、少々寝不足だが、文句のあろうはずがない。

故郷では、心残りだった父の3回忌もできたし、久しぶりに母の元気そうな顔も見られて安心した。

 

この本は、帰省中の電車の中で読んだ。あきらかに「12人の怒れる男たち」をオマージュした作品。

 

ある廃病院に、子どもたちが三々五々やってくる。12人。彼らの目的は集団自殺である。管理者と名乗る1番の男子の呼びかけに応じ、200問から成るテストを経て集められた。事前に遺書も書いてあって管理者が預かっており、彼らの死後に公開される手筈になっている。

ところが、廃病院の地下に集まり、1から12番まで並べられたベッドの1番の上に、すでに死体と思しき男子が横たえられていた。明確な跡が残っているわけではないが、状況から見て他殺の可能性が高いと思われた。アリバイに使われた薬品の空き瓶が転がっているが、その薬では自殺なら失敗するはずなのだ。

ここで、彼らはこの不可思議な「0番」を前にどうするかを議論する。全員一致で自殺を決行するのがルールであるが、一人の反対者がでる。疑惑をのこしたままではすっきりしないし、ひょっとすると、他殺の殺人犯だと思われる可能性もある。自分はそんなことはしていない、しっかり白黒つけて死にたいと言うのである。

廃病院の出入りは他に人がいたと考えにくく、集まった12人のなかに犯人がいるのではないかと思われた。誰か名乗り出ろ、という話になったが、誰も名乗り出ない。

集まった少年少女たちは、頭脳明晰なシンジロウ(探偵役)を中心に、病院内に残された手がかりから犯人を推理しはじめる。

話し合いを重ねるうち、この廃病院への到着順が重大な意味を持っていることがわかる。

誰かが、嘘をついている。。。

やがて、真相に気がついた男子が現れるが、休憩時間中に彼は何者かに襲われる。

強硬に自殺の決行を主張するアンリ(女子リーダー)と、他の疑惑追求メンバー(主に男子)との意見も割れる中で、ついにシンジロウは事件の真相に到達し、皆にその推理を披露する。。。

 

これは面白い。

謎解きの面白さと、12人の自殺がどうなるのか(まあ、これは予想通り)そして、それぞれのメンバーの自殺の動機と討論に対する態度の内心の声が丁寧に描かれる。

よくできたドラマのシナリオであると思う。

もともと「12人の怒れる男たち」へのオマージュだから当然か。

評価は☆☆。

読んで損はない。

この人は「天地明察」を書いた人だと思うが、あれも面白かった。該博な知識とエンタメ要素がうまくドッキングしている。頭の良い人なのであろう。

難を言えば、途中からラストが見えてしまう点だが、しかし、管理者の男子に関しては予想外で「なるほど」と思ってしまった。なんとなくありそう、と思わせる点で巧みな人物造形である。

 

こういう登場人物が多いストーリーは難しいのだが、焦点が「自殺」に当っているため、いわゆるパターン的な人物造形がきちんと説得力がある。思い詰めている状況なので、各人の性格が思い切りパターン化していても、違和感が薄いわけだ。

限界状況だからこそ、各人の個性が明確に現れるというわけである。

最初は12人もいるので、いちいち名前を覚えられないと思いつつ読んでいくのだが、途中から自然と覚えてしまう。それぐらい、書き分けがしっかりしているのである。

 

「12人もの」といいうのは、そういうわけで、小説の修行にはもってこいのネタなのかもしれませんねえ。読者が自然に12人を覚えてくれたら成功と見なして良かろうと思う。

ま、しかし、仮に官能小説で12人ものを書いたら大変なことになりそうですなあ(笑)ジャンルは選ばないと、ですねえ。