Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

サイレントジョー

「サイレントジョー」T・ジェファーソン・パーカー。

評判の良いハードボイルド。

静かなジョー。それは、ジョーが、あまり無駄口を利かないところに由来する。ジョーは、赤ん坊の頃、父親に硫酸をかけられて顔面に大けがを負い、ふだんは帽子を目深にかぶって顔を隠している。
父と母は離婚し、母親はジョーを手放して金持ちと結婚し幸せに暮らしている。
施設に引き取られたジョーは、彼を養子として引き取ったウィルに育てられる。ウィルは、オレンジ郡の実力者であり議員である。ウィルのおかげで、ジョーははじめて愛情を知る。
成人したジョーは、昼間は保安官として刑務所に勤めて、夜はウィルの個人警護をする。そのウィルが、ある日、何者かに襲撃されて死亡。ウィルを守れなかったジョーは、必死に犯人を追って捜査を開始する。
そんなある日、外国人の移民女性が、ひき逃げ事故に遭って死亡。この事件を捜査するうち、ウィルと道路建設を巡って争っていた対立勢力があったことを知って、その背後関係をジョーは追っていく。
明らかになる事件の真相。
しかし、さらにジョーは、自らの出生の秘密を知ることになる。。。(以下、ネタバレにつき自粛)

淡々としたハードボイルドの筆致が心地よい。
ジョーの醜い顔面とは違う、清冽な心のもちように打たれる。彼を支える恋人の存在も。

物語は、しかし、決して文学的な善を主張したりすることはない。
対立していた人物が、必ずしも悪ではなく、ある主張が異なるだけである。愛は、困難に直面したとき、実に支えを与えてくれるが、しかしまた永遠の愛はない。それをわかりつつ、それでも愛を人は求める。
無償の愛情と思えたものにも、理由があったりする。
すべてに「純粋さ」を求めて我々は生きていくことはできない。そういう純粋さを失うことで、我々は大人になっていく。それは、決して恥ずかしいことでも忌避されるべきことでもない。ただ、人はそうでなくては生きていかれない。

評価は☆☆。
物語前編に漂うリリシズムが美しい。アメリカの近年のハードボイルドのお手本とも言うべき作品。
だけど、その枠を忠実になぞっているという批判はあり得るだろう。つまり、ハードボイルドとして、あまりにも王道すぎる、とか。

長い夜に、ウィスキーをちびちびとなめつつ、ページを捲るのには最高。
ただ、子供っぽくもなく、諦めもなく、ただ淡々とこの世界を超えるような大人の小説が読みたい。