Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

アヒルと鴨のコインロッカー


最近評判の良い著者らしいので、読んでみた。

一言でいえば「ミステリ風青春小説」だね。小峰元や、デビュー時の栗本薫みたいな感じ。

書き出しは印象的で、大学に入学したばかりの主人公が「本屋を襲撃に行こう」と誘われる。「広辞苑」を強奪に行くのだ、ということだ。
なんでそんな、と思いつつも、気がついたらモデルガンを持って店の裏口の前に立って、ボブ・ディランを歌っていた、、、この事件の真相が、2年前の出来事と現在の出来事を交互に語るカットバック形式で語られていく。読み進むにつれて「ああ、そうだったのか」と頷く、という具合である。

評価は☆。
上手に書いた小説、という感じがする。テクニックもうまいし、登場人物の心理描写がイマ風で、小洒落た感じがするのだね。

だけど、なんとなくこの小説家は「大成」しないんじゃないかな、と思う。
じゃあ村上春樹はどうなんだ?ということになると思うけど、あれは偉大なる先人ヴォネッガットがあってのものだろう。その前はサリンジャーか。日本は出遅れただけで、米国では主流文学だと思う。
この路線で、ミステリとの複となると、今までどの作家も大成していないと思うのだ。(独断と偏見)

ただ、面白いのは、この作品の中でブータンに関する記述が多くて、死生観の違いとか習俗の違いをかなり事細かく説明している。
日本におけるブータンファンといえば、なんといっても養老孟司氏が有名で、つまりは物質文明批判、生死が連続した東洋的死生観、小欲知足の生活といったグローバリズムに対するカウンターカルチャー化している部分があるわけである。その部分をうまく引き継いでいて、そこが物語全体に対する思想的なバックボーンになっている。このあたり、単なる「素材」を超えた理解が感じられる部分があるのだ。
ひょっとして、実は奥行きがあるのかも!?と思わせるところが魅力なのかな。

もう1冊くらいは読んでみてもいいかもしれない、などと思った。
ということは、やっぱり、それなりに良く出来た作品なんだろうなぁ。うん。