Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

叫びと祈り

「叫びと祈り」梓崎優

 

2011年このミス国内3位。

ミステリはかなり好きなのだが、最近では海外作品ばかり読んでおり、国内作品はご無沙汰である。なんというか、ストーリーが単線すぎて面白くない(トリックなどは精緻なのだが)と思ってしまうためだ。

しかし、かれこれ10年もそんなことを言っているような気がするので、たまには国内回帰してみるかと思った。

 

この作品は連作短編集で、著者のデビュー作である。

いずれも、外国が舞台になっており、サハラ砂漠とかアマゾンの奥地とか、ロシア国境の凍てつく教会とかスペインの農家小屋とか。

小説としての出来は、私見では冒頭のサハラ砂漠舞台の作がもっとも良いと思う。

「砂漠を渡る船」ラクダに乗って、砂漠の中のオアシス村に岩塩を取りに行く隊商の話である。それが、帰路に砂嵐に遭遇して、隊長が死んでしまう。事故である。隊長は砂漠の中の道を知悉する人物であり、今後の旅に不安を抱かせる。仮になんとか戻れたとしても、再びオアシス村に行きついて往復できるかどうか、わからなくなってしまう。

ところが、隊長の死後、今度は隊商の別の男が殺される。ナイフによる刺殺である。

砂漠の中であるから、ほかから人がやってくることはない。つまり、犯人は隊商の中にいる。では、誰がやったのか?

この隊商に取材のため同行していた日本人ジャーナリストは、二人目が殺されるに至って、その謎をとくのだが、人物は限られているのだから、それは当然だった。

では、犯人はなぜ、隊商の仲間を殺したのか?

それは、日本人が思いつきもしないような「砂漠の掟」によるものであった。。。

 

デビュー作品らしい清新さがあって、ちょっと類例がない感じがする。

これは高評価を得たのは当然だろう。

評価は☆☆。

 

いわゆる「ホワイダニット」犯罪の動機が主題の作品であり、この連作短編集で一貫したテーマになっている。

かつて、栗本薫はミステリーも小説で、つまりは「人間を描くのが主題」である以上、必然的にそれはホワイダニットに行きつかなければならない、と説いた。

ある一人の人間が犯罪、なかんづく殺人を犯す。それには、相応の深い理由がなければならない、それを「遺産が欲しくて」「女を取られた恨みで」そんなの、いくら巧緻なトリックがあったところで、新聞の三文記事と同等ではないか、と言った。

まあ、一理あるなあと思ったのを思い出す。

もっとも、今では、小説では何をやってもいいと思うようになったので、別に三文記事なみの動機で巧緻なトリックでも構わないとは思う。ただし、きっと面白くはない。

 

面白い小説を求めて、手当たり次第の乱読をしているのだが、どうにも、ほかにしようがない。面白い小説にぶち当たる黄金法則というものはない。賞の受賞作品というのは、たしかにそれなりに面白いものが多いとは思うが、昨今では妙に読みやすさばかり優先されているような気がする。下読みをする編集員と一般読者の間に乖離があり、さらに自分が読み手として一般読者から乖離していると、もうどうしようもないわけだ。

よって、最後は運次第。

まあ、人生もそうだもんなあ。