Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

バルザックと小さな中国のお針子

バルザック小さな中国のお針子」ダイ・シージェ。

文化大革命のさなか、下放された中学生2人とお針子の少女の交流を描く。

「私」と友人の羅(ルオ)は、まだ中学生であるが、文化大革命のあおりでとんでもない田舎に下放されてしまう。理由は、彼らの両親が「知識人(医者)」だったからで、だからその子息である彼らも「知識人」なのである。14歳の知識人である(笑)。
文革のばかばかしさは、こんなところでも分かるわけだが。

で、彼らは下放(わかりやすくいえば、追放)された田舎で「労働改造」を受ける。早い話が、無給でこきつかわれるわけである。畑に肥桶をかついで登り、炭坑に潜らされたりする。
そんな中、もう一人追放されてきた「メガネ」くんが「禁書」をもっているのを知る。それは、堕落したブルジョアの文学、つまりバルザックやデュマの本だった。
彼らは、メガネがうまく下放から赦免を勝ち取った祝いの夜、彼の本を盗み出す。
彼らは、その本に夢中になる。そして、読んだ内容を、お針子の少女に教える。他に娯楽のない村では、「物語」が大きな娯楽であり、ルオと彼女は物語を媒介にして親しくなる。
ところが、やがて彼女は妊娠してしまう。中国では、25歳以下の結婚は犯罪である。しかし、中絶も犯罪なのだ。
困った「私」は、彼女を助けるため決死の行動をとる。。。

中国の文革期の「村」の描写が実にリアルだ。入院患者がいるのに食堂すらない病院で、患者自身がベッドで自分の食事をつくらなければならないような環境に、彼ら自身がげんなりしているのがよく分かる。しかし、それでも、若者は必死に生きるのである。

評価は☆。
純粋に、面白い小説である。そう、「思想」を抜きにして読んでもらいたい佳作である。

思うに、今はテレビもインターネットもある。自由で、日本ではどんな書物だって手に入る。(売れなくて絶版になる本も多いわけだが)
しかし、こんなふうに弾圧されると、いかに文学が魅力的に思えることか、これは想像してみるほかない。ホントは、ちょっと弾圧したほうが、文学にとっては良いのかもしれないのである。なにしろ、歴史上「体制側の文学」なんてないわけであって、文学は反体制でなくっちゃいけない。

ただし。「反体制」であれば、なんでも「文学」ではないのである。その勘違いをした場合は悲惨だなぁ。

ま、余計な感想であって、本書はそういうことを抜きに読まないと面白くないよ、と言いたいのだ。それでいいんじゃないかな。