Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

凍てついた夜

「凍てついた夜」リンダ・ラ・プラント

大傑作を発見。これだから、やめられんのだよ。(苦笑)

主人公のロレインは、優秀な女性刑事だった。
ところが、多忙な仕事に没頭するうちに、順調にキャリアを重ねていく夫との間に隙間を感じるようになる。
さらに、もっとも尊敬する相棒が捜査中のミスで犯人に射殺されてしまう。
ロレインは、つらさを癒すためにアルコールに逃避。いつしか、完全なアルコール中毒に陥っていた。
昼間から酒を飲んでいたロレインは、捜査中に、丸腰の少年がピストルで武装しているものと誤認して射殺してしまう。
警察は、事件をもみ消し、ロレインはクビになる。
昇進を控えた夫は、優しく専業主婦でもいいじゃないか、と声をかけるが、すでに彼女の心は崩壊してしまっていた。
連続飲酒がはじまり、二人の子供の親権も夫に渡して離婚。
分与された財産もたちまち使い果たし、いつしか、酒を買う金のために売春婦に身を落とす。

落ちるところまで落ちたロレインだが、ある日、ひき逃げ事故にあい、保護施設に収容された。
そこの食堂で働いていたのが、同じ境遇から立ち直ろうとしているロージーだった。
ロレインは、ケガの回復後に、ロージーのアパートに居候する。ほかに行くアテもない。
ロージーに勧められ、仕方なく断酒会に出席したりする。
ロージーの暖かい人柄に触れて、少しづつ再起をはじめたロレインだが、そう簡単に立ち直れるはずもない。
ある日、もとの商売にもどっているところで、客の男にハンマーでひどく殴りつけられ、あやうく殺されるところを脱出する。
その男こそ、娼婦の連続殺人事件の犯人だったのである。
この事件を捜査する警察に、参考人として逮捕されるロレインだが、逆に事件の背景を探る仕事にありつく。
彼女なら、警戒されずに娼婦達の話を聞き出せるからである。
そして、ロレインは、ついに容疑の濃厚な人物を特定することに成功する。
ロージーにクルマの運転とカメラ撮影を頼み、その人物の屋敷に向かうロレインだが、さらに意外な真相がまっていた。。。


評価は☆☆☆。傑作である。

ジャンルとしては、女私立探偵のハードボイルド、ということになるんだろう。
しかし、本書では、まだ彼女は開業すらしていないのだ。文無しだから。開業資金を調達しようと、四苦八苦するのである。
さらに、前歴は売春婦で、ようは街の立ちん坊である。それも酒代目当てだから、その数年間を、まったく覚えていないのだ。
こんな探偵があるだろうか?
言うまでもないが、少なくとも、身を持ち崩す落差において、女性は男性よりも、その差が激しい。
差別もあるし、立ち直るのも容易ではないのだ。
ロレインは、涙ひとつこぼさず、表情も変えずにそれに立ち向かった。しかし、そうすると、また酒に手が出てしまうのだ。
愛する家族のもとに帰りたいと念願して、必死に努力を続けるロレインだが、その結果、再開した家族は、すでに彼女の知っている家族ではなかった。
夫は再婚して若くて美しい妻がおり、子供達は幼いときに分かれた母の記憶も薄い。
帰宅したロレインは、ついに号泣する。なんのために立ち直ろうと、頑張っているのか?と。
ロージーは、そのロレインを優しく抱きしめるのだ。
私もそうだ、わかっているよ、と。
このシーンは、何度読んでも、優しく、切ない。

本書は続編が2冊でているようだ。
すでにして、いずれも絶版らしい。
しかし、こんな優れた作品が埋もれていて、古本屋の(それも100円の)棚にしか転がっていないというのは、いったいどういうもんだろうか?と思う。
出版不況というが、出版社だけじゃなくて、読むほうにも、問題があるのかもしれないなあ。

ちなみに、翻訳も素晴らしい。
丁寧な仕事である。
埋もれているのは、ホントにもったいない作品なので、まだ未読の方は、探してでも読む価値がある、とオススメしたい。
ハードボイルド好き、海外ミステリファンなら、気に入って貰えることは間違いないと思う。