Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

「樽」F・W・クロフツ

アリバイ崩しの古典中の古典とされる名作「樽」である。
実は、この作品を私は未読であった。なにしろ、手練れのミステリ好きな連中がこぞって「地味」「ドラマがない」などと酷評(誉め言葉でもあるのだが)とするのである。
読む気にならなかった。
しかしながら、自分の読書人生の先行きを考えると、大名作を読んでいないのも寂しい。
そんな動機で、本書を手に入れた次第。

物語は、ロンドンの波止場ではじまる。
貨物船から樽を下しているとき、手違いで樽が落下。中から、金貨がこぼれ出る。異様に重い樽である。そして、荷役会社の者が、樽の破損した隙間から、女の指を発見する。
樽の中に死体が入っているらしい。驚いた荷役会社は、しばらく樽を保管するように人足に命じて、本社に指示を仰ぎに行く。
ところが、その間に、こつ然と樽は消えてしまう。
正しい樽の持ち主なる人物が現れて引受書を示し、なかば強引に荷馬車でもっていってしまったのである。正しい引受人であれば、とりあえず樽を引き渡さざるを得ない。
ロンドン警視庁が動き出し、樽を発見する。中には、金貨と死体が入っている。
樽の引受人のフェリックスは、フランスの知人と共同で富くじを買い、その賞金が贈られてきたのだと弁明する。
そして、樽を開けて、実際に女性の死体が出てくると、フェリックスは失神してしまった。
彼は、女性の殺害容疑で逮捕勾留されることになる。

被害者の女性はパリのポンプ会社重役ボアラック氏の夫人であった。樽も発送地はパリである。
そこで、ロンドン警視庁のバーンリー警部はパリに飛び、パリ市警のルファルジュ警部と共同捜査を展開する。
捜査の結果、フェリックスが美術品を注文した手紙の吸取紙、美術品発送の樽が事件の樽と同一であることが判明する。
さらに、美術商は樽を2つ、フェリックスにあてて発送していることが分かった。その理由は不明だったが、フェリックスの容疑は裏付けられたと思われた。

窮地に立ったフェリックスだが、知人の助けを得て、有能な弁護士を雇うことになる。
この弁護士は、フェリックスの弁明を信じ、事件の真相を解明するため、探偵を雇った。真犯人を指摘できれば、フェリックスの嫌疑は晴れる道理である。
探偵ラ・トゥーシュは、地道な捜査を積み重ねて、謎を解明していく。
彼は、樽の動きを執拗に追う。ついに、真相にたどり着いた探偵が出した結論は、樽は実は、、、


うーむ、面白い!
クロフツは、元々技師で、病気をして、その病中の暇つぶしに書いた作品だという。ゆえに、処女作である。
技師らしい飾り気のない即物的な文体である。
そこから浮かび上がるのは、まぎれもない犯罪の軌跡と、犯人が自分の後を消そうとしたアリバイなのだ。
名探偵が、皆をあつめて「さて」とは言わない(笑)。
地道な聞き込み捜査があるばかりだ。
だから、面白いのである。

評価は☆☆。

さあて、これは困った。
世間でいう名作なんぞ、そんな面白い小説であるはずがなかろう、と今まで馬鹿にしきってきたのだ。
齢50を過ぎて、実は名作はやっぱり名作だと知らされる。
今までの、ワタシの人生は、いったい何であったのか?
こういうのを、馬齢を重ねる、というのでしょうなあ。。。

ああ、情けなや。