Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

エレノア・オリファントは今日も元気です

「エレノア・オリファントは今日も元気です」ゲイル・ハニーマン。

 

英国で2017年にデビュー作として上梓、なんと220万部を売り上げたという作品である。
220万部がすごい、と思うが、よく考えたらさらにすごい。
だって、英国の人口を考えてみればわかる。我が国1億2000万の半分くらいしかいない。
日本でいえば400万部くらいのインパクトがあったはず。つまり、化け物小説だということである。

主人公のエレノアは29歳で、小さなデザイン事務所で経理の仕事をしている。
学校を卒業して、すぐにこの事務所に入社し、以来ずっとそこで働いている。
毎日、きっちり定時の17時半に仕事を終えるとバスに30分揺られて自宅のアパートに変える。
あとは気に入ったテレビを見るか読書をする。実は、TV番組は教養番組かドキュメンタリーが好きだし、読書はかなり難解な本を読んでいる。趣味はクロスワードパズルである。
週末にはウォッカを2本買って帰り、週末はそれを飲んで過ごす。それだけの生活をずっと続けてきた。
ある日、彼女はあるミュージシャンに一目惚れする。
思い立ったら直情径行の彼女は、ただちに美容脱毛に行き、調子の悪いパソコンを治してミュージシャンの情報を漁る。
彼女のパソコンを治したのは、最近事務所に採用されたIT担当のレイモンドである。
エレノアとレイモンドは、たまたま帰路が一緒になったとき、ある老人が突然倒れるのを助ける。
老人の名はサミーといい、命の恩人の彼らに深く感謝する。
エレノアとレイモンドは何度か一緒にサミーのお見舞いに行き、サミーの家族とも仲良くなる。
やがてサミーは回復し、そのお祝いのホームパーティに二人は招かれる。
これまで、まったく他人と関わりを持たなかったエレノアの生活が少しづつ、変わりはじめた。
エレノアが他人と関係を持たないで行きてきたのは、彼女の前半生に深刻な問題があったからである。
彼女には幼少時代の記憶があるところですっぽりと欠落している。
母親は刑務所におり、毎週水曜日の決まった時間に電話がかかってくる。
母親は刑務所からでさえ、エレノアを支配しようとする。父親はいない。父親の話も聞いたことがない。
母親が刑務所にいるため、彼女はずっと保護家庭、保護施設をたらい回しされて生きてきた。
「食べるもの、着るもの、住むところは常にあった、私は恵まれている」と彼女は言う。
しかし、それ以上のものはない。だから、彼女は他人と関係をうまく築くことができない。
レイモンドは、しかし、そんな彼女と生まれてはじめての友人になろうとする。
やがて、エレノアの一目惚れが破れる日が来る。ミュージシャンは彼女が思い描いた王子様ではなく、ただの無教養なバカ野郎だった。
ショックを受けたエレノアは心身の調子を崩し、出勤すらできず、セルフネグレクトに至る。
心配したレイモンドが駆けつけて、彼女を助けようと奮闘する。。。


素晴らしい作品である。220万部を納得するしかない。
評価は☆☆。
読んで損はない。

どうして人間は、他人とうまく関係を持てると嬉しいのか?
それは、そうしたいという欲求が我々のうちにあるからである。
エヴァンゲリオンでいうところの「補完」ができると、私達は救われるわけだ。
エヴァンゲリオンでは、究極の形として人間がすべて溶け合ってしまい、一つの生命になるのがゼーレの目的だった。
しかし、一つになってしまっては「他人との関係」はなくなってしまう。
我々は、人の心が完全にはわからず、どんなに愛していても一つの人格になることはできない。
それ故に、分かりあえたときを、一層喜ぶ。

たぶん、人間がこの世に生まれてくるときに、一つの使命としてそういう気持ちが組み込まれるのではないかと思う。
人類としての本能かもしれない。
しかし、そういうことがなかなか出来ない、いわゆるコミュ障という人たちもいる。
この小説は、コミュ障の人たちの童話だと思う。
英国にも、少なくとも220万人のコミュ障がいた。
私は、その事実に心が慰められる気がするのである。