「ほかに誰がいる」朝倉かすみ。
主人公のえりは16歳の女子高生で、ある日、電車で見かけた同級生のガシュウレイコに一目惚れしてしまう。そのうち、二人は仲の良い友だちになり、一緒にレイコの自宅の近くの公園で深夜に会って話をするほどになる。
レイコは恋愛に憧れており、そんな彼女を喜ばせたいと思ったえりは、この公園で昼間見かけた「かれ」の話をする。大学生でイケメンで優しいかれは、レイコにぴったりだと思うと。架空の恋人の話で盛り上がる二人だったが、ある日、レイコは本物の「かれ」に会ったという。昼間の公園に、まさにそんな「かれ」がいたのであった。
レイコとかれは付き合うようになり、えりはレイコのために喜ぼうとする一方で、レイコと出会う前の自分に戻りたいと考える。公園に通うのに使っていた自転車をハンマーで壊し、ついでに自分の左足もハンマーで砕いてしまう。周囲には交通事故といって誤魔化した。彼女は入院し、左足は少し麻痺が残ったが歩けるようになった。彼女は病院内で自分の耳に切れ込みをいれるという自傷行為に出る。しかし、一方で大学に行きたいという気持ちも湧いて、浪人して受験勉強に邁進する。一方のレイコは米国に短期留学し、留学先から何通もえりを気遣う手紙を出すが、えりは一切を開封しなかった。
やがて無事に大学に進学したえりだが、病院のレントゲン技師の名字が「ガシュウ」であることに気がつく。よく見れば、レイコの面影があると思う。この男にレイコと同じ血が流れていると思ったえりは、この中年のレントゲン技師と交際を始める。交際というよりは、単にセックスフレンドというべき付き合いであった。えりは、中年男の肉体にしか関心がなかった。
そのうち、えりは、自分が子供を産めるという事実に気がつく。この中年男との間に子供ができれば、その子はレイコと血を分けていることになる。えりは避妊していると嘘をついて、中年男の子を妊娠する。
男は喜び、入籍しようと言い出す。えりは、私は他人の家庭を壊す気はないと断ると、男は不思議そうな顔で、僕は結婚していないと言い出す。中年男は、レイコとはまったく関係のない、たまたま珍しい名字が同じだけの他人だった。
えりは男をベッドに縛り付けてガソリンを撒いて火をつける。その火の中にえりも巻かれていくなかで、最後にもうひとつの望みを抱くのだった。。。
ラストはホラーだった。夏向き?というわけではないだろう。
一目惚れを、どこまでも純粋に突き詰めたらどうなるか。純愛は、やがては破滅となるしかない。社会性と愛が両立するというのは、おとぎ話にすぎない。
女の子同士なので、「百合」ということになるのでしょうが(苦笑)そういう場面はありません、念のため。
評価は☆。
テーマとしては、明治の文豪の漱石もやっている話である。三四郎も、「それから」も、愛を貫く結果として社会から指弾されることになるのだ。
日本の漫画においては「ハッピーシュガーライフ」という名作がある。同じテーマであるが、こっちは現代的だ。アニメ化もされているが、これも名作である。
西欧においては、ロミオとジュリエットがすでにそうである。二人の純愛は、最後には悲劇に終わるしか無い。
いわば、結論はわかっているのである。
それでも、人は純愛に憧れる。
思えば、なんともけなげなものではないか。
社会やモラルを忘れて、破滅しても、ただ愛に走る。
正しいとか正しくないとか、そういう議論は横に置こう、それが文学というものでしょう。