Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ノクターナル・アニマルズ

ノクターナル・アニマルズオースティン・ライト

 

主婦49歳のスーザンは二人の子供にも恵まれ、心臓外科医の夫と幸福な家庭生活を送っている。実はスーザンと夫は再婚同士で、もとは不倫関係だった。スーザンの元夫エドワードは裕福な家庭の生まれで、小説家志望(つまり無職)だった。スーザンはエドワードの繊細さに魅力を感じていたのだが、まったく原稿が書けないことにだんだんと物足りなさを感じ始める。スーザンも文才はかなりあるほうだったから、夫の作品が習作の域を出ず、出版に値しないこともわかっていた。そんなとき、精神病を発病してしまった妻をかかえる現夫と出会ったのだ。元夫のエドワードはそれを責めなかったが、スーザンが夫の作家の才能を否定したときが夫婦関係に終わりだった。

そして20年が過ぎて、元夫がスーザンのもとに小説の原稿が送られてくる。小説内で、スーザンはその原稿を読む。

 

以下は作中作の話である。数学教授のトニーは、休日に妻と一人娘を連れて一泊旅行にマイカーで出かける。夜通し自動車を走らせていると、2台の車に前後を挟まれてあおられ、接触事故を起こす。車に乗っていた3人の見るからにならず者は、このまま事故を届けに警察に行こうという。トニーは逃げようとするが、事故を起こしたやつが逃げるのは不正だと3人に詰め寄られ、トニーは相手の男の車、家族はならず者が運転するマイカーに分乗させられ、森の中にトニーは置き去りにされる。なんとか人家にたどり付いたトニーは警察に助けを求めるが、妻と娘はレイプされた死体で見つかった。

捜査にあたるアンディーズ警部は、がんのため残り少ない命を燃やしながら犯人を捕まえるが、検事は証拠は不完全だという理由で起訴を見送ってしまう。その原因はトニーにあり、最初に3人のうちの一人を見たときに、犯人かどうか自信がないと言ってしまったのだった。彼は恐ろしさと夜のために、相手の顔をまともに見ていなかった。

しかし、アンディーズ警部は釈放された犯人を自分のコテージに連れ込み、トニーを呼び出して立ち会わせ、脅迫して自白させる。彼らは真犯人だった。二人組の犯人は(もう一人は別件ですでに死亡)逃亡しようとし、一人はアンディーズ警部が射殺する。残る犯人を発見したトニーだが、警部から拳銃を預かっていたが撃てない。逆に犯人に失明させられてしまう。トニーも拳銃を発射し、どうやら犯人を射殺したらしいが、それを見ることはできない。やがてトニーの持っていた拳銃が暴発し、自らの腹を打ち抜いたせいでトニーも死ぬ。。。

 

スーザンは小説を読み終わった。彼女が心奪われる出来栄えだった。元夫が今夜、久しぶりに小説の感想を聞くためにやってくるという。「今となっては良い友達」という結末を期待したスーザンだったが、元夫は尋ねてくることはなかった。。。

 

素晴らしい作品である。評価は☆☆。

作中作の出来栄えもなかなか良いが、それを読むスーザンの心理が微妙に動いていくところが面白い。スーザンは、小説の中の人物に元夫の考え方の反映を見ようとする。すべては、彼の創作したものなのだから。しかし、実際には作品を読んだことで、スーザンは今の幸福な生活に疑問符を持ち始めるのだ。かつて、元夫を裏切ったのと反対の疑問がスーザンの心に浮かぶのである。元夫の復讐劇ということになるだろうか。

 

この作者の代表作が本作なのだが、ちょっと驚いたのが、この作品を書いたのが著者71歳であることらしい。で、その10年後の81歳で亡くなっている。彼は、文学の大学教授として働いており、そのかたわら、老境に至って執筆活動を入ったということらしい。それにしても。71歳で代表作をものするとは、なんということか。

馬齢を重ねる自分を恥ずかしく思うしかないのですねえ。